昨日(3/11)の朝日新聞に、ポール・クルーグマンのコラムが掲載されていた。無精をして、コラムの内容を抜粋したブログ記事から引用する。
2619 ・クルーグマン氏の「トランプ現象」――ペテン師は誰なのか - 生き生き箕面通信(2016年3月12日)より
(前略)
・クルーグマン氏の「トランプ現象」――ペテン師は誰なのか「米共和党は、内政に関して、ばかげたことを言う人物を大統領候補に指名しようとしている」と、そのコラムはのっけからあぶない話を掲載していました。昨日3月11日の朝日新聞にのったクルーグマン氏の名物コラムで、「ペテン師はトランプ氏だが、本当にばかげているのは、その実、共和党の保守本流や若手のホープという人たちだ」といっています。
コラムでは、トランプ氏もばかげているけれど、実はルビオ氏も同様に、財源も無しに、財源抜きの驚愕の減税や大幅な軍備増強、財政の均衡を果たすと約束する人物だ、といいたいのです。
クルーグマン氏は「それが何を意味するのかをどうやら知りもせずに、市民を『じゅうたん爆撃』したがっていうようなのは、クルーズ氏だ」と手厳しく批判しています。
クルーグマン氏にとっては、「我々はトランプ氏の人気上昇を歓迎すべきである。そう、彼はペテン師だ。だが、ほかの人たちのペテンを告発する役割も事実上、担っている。信じがたいだろうが、この奇妙で厄介な時代に一歩前進を意味するのである」と結んでいます。
クルーグマンの言う「共和党のペテン」とは何か。以下朝日新聞に掲載されたコラムからそれに触れた部分を引用する。
第1に、共和党が国政選挙でいつまでもうまくやってのけるペテンがある。米国の問題に誠実に取り組もうとしている、まじめで成熟した政党だ、と見せかけるのである。実際は、そんな成熟した政党はとうの昔に死んでいる。最近はどこをとっても呪術経済学とネオコンの幻想ばかりだ。それでも既成勢力はうわべを保ちたいのだが、それに一役買うのを拒む人物が指名候補になれば、難しくなるだろう。
(中略)
同じくらい重要なのは、トランプ現象は共和党の既成勢力が支持基盤に対して働いていたペテンに脅威となることだ。私が言うのは、「あの連中」のせいにして白人有権者が大きな政府を嫌うように導くものの実際の政策はどれも献金層に報いるものばかりだという「おとり商法」のことだ。
つまりトランプとはトリックスターだ、ということなのだろう。
ところで私は今回のクルーグマンのコラム自体にはそれほどのインパクトを受けなかった。それより、このコラムを読んで、昨年末に取り上げようと思って機会を逸してきた、やはり同じクルーグマンが書いて朝日新聞に翻訳が掲載されたコラムのことを思い出したのだった。こちらも幸いにしてブログ記事に紹介されているので、以下に引用する。コラムは昨年12月4日付のニューヨーク・タイムズに掲載され、同12月11日付朝日新聞に日本語訳が掲載された。
クルーグマン氏のコラム:温暖化論争 科学に背を向けるな(共和党などについて) | 山口透析テツ日記(2015年12月12日)より
将来の歴史家は――そういう人たちがいればの話だが――2015年12月に世界で起きた最も重要な出来事は、パリの気候会議だと語るだろう。
たしかに、パリでの合意だけでは、地球温暖化問題を解決するうえで、まったく十分ではないだろう。だが、この会議が転換点となり、大惨事の回避に必要な国際的行動が始まっていく可能性がある。
しかしまた、そうならない可能性もある。我々は悲運に陥るかもしれない。そうなったらだれが責任を負うか、おわかりだろう。共和党である。
ああ、多くの読者がどんな反応をするかは承知している。なんて党派的な、なんとむちゃくちゃな、と。しかし実際、私が述べたことは明白な事実だ。ニュースメディアや専門家、政界の既成勢力全般がそうした事実に向き合えないことは、我々が直面する危機の重大な一因になっている。
米国の環境問題をめぐる政治論争をたどればわかることだが、共和党の政治家たちは、温室効果ガスの排出量を抑制するいかなる行動にも徹底的に反対し、大多数は気候変動に関する科学的な合意を認めない。
(政治家の発言の正確性を評価するウェブサイトの)「ポリティファクト」が昨年伝えたところでは、共和党議員278人のうち、人為的な地球温暖化の現実を認めると公言した人は、わずか8人しか見つからなかった。共和党の大統領候補の指名を争うほとんどの人は、確固として反科学陣営にいる。
*
しかしながら、共和党の否定の壁が、米国においても世界的にみても、いかに異様であるかということは、一般には理解されていないかもしれない。
(中略)
気候変動を否定する正統派理論は、科学的な合意が間違っていると言うだけにはとどまらない。共和党の長老議員たちはきまって、気候変動の証拠は世界中の科学者たちによる壮大なでっちあげの産物だという、とっぴな陰謀論にふけっているのだ。そして科学者個人に対し、あらゆる手で、嫌がらせや脅迫をおこなう。
ある意味、これは長い伝統の一部だと言える。リチャード・ホーフスタッターの「米国政治の偏執狂的スタイル」が出版されたのは、半世紀前のことだ。しかし、そういうスタイルが、この国の2大政党のひとつを完全に支配するというのは、これまでになかった。
そういったものはまた、他の国にもみられない。
たしかに、西洋全域にわたって、保守政党は左派政党よりも気候対策を好まない傾向がある。それでも、たいていの国、正確には米国とオーストラリアを除くすべての国の保守政党は、排出量を抑制する措置を支持している。問題があることさえ認めようとしないのは、米共和党だけだ。残念ながら米国の重要性を考えると、一国の一政党の過激思想が、世界全体に甚大な影響を及ぼす。
それなら、2016年の大統領選は当然、その過激思想に対する国民投票だと考えられるべきである。だがおそらく、そのようには伝えられないだろう。ここで頭に浮かぶのは「気候変動否定論の否定」とも呼べる問題だ。
この否定の一部は、共和党穏健派によるものだ。彼らは選出される公職についていないだけで、まだ存在する。穏健派は、党が気候問題で極端に走っていることは認めるかもしれないが、こんなふうに論じがちだ。今後長くは続かない、党はいますぐにでも理にかなったことを話し始めるだろう、と。(もちろん、彼らはどんな気候問題否定派を大統領候補に指名しようとも、支持する理由を見つけるだろう)
*
(中略)気候変動否定バブルの外にいるすべての人に、恐ろしくひどい現実を率直に認めていくことをすすめたい。我々が目にしているのは、科学に背を向けた政党だ。そんなことをすれば、文明の未来そのものが危うくなる時代だというのに。これが事実であり、真正面から立ち向かわなければならない。
(NYタイムズ、12月4日付、抄訳)
西洋全域にわたって、保守政党は左派政党よりも気候対策を好まない傾向がある。それでも、たいていの国、正確には米国とオーストラリアを除くすべての国の保守政党は、排出量を抑制する措置を支持している。問題があることさえ認めようとしないのは、米共和党だけだ。
と書く。それはその通りなのだろうと思うが、日本はもっと深刻だ。「リベラル」が率先して地球温暖化否定論・地球温暖化陰謀論を唱えている。そして、同様の主張をするノビー(池田信夫)と足並みを揃えるのである。特に地球温暖化陰謀論が大好きなのは「小沢信者」たちだった。私がネットでそれを最初に批判したのは2008年のことだ。
- きまぐれな日々 俗情に媚びファシズムを招き寄せるポピュリズム言論の害毒(2008年1月26日)
- きまぐれな日々 地球温暖化論の「まやかし論」や「陰謀説」を信奉する人たち(2008年7月29日)
「小沢信者」の地球温暖化陰謀論への熱狂を煽ったのは「ミラーマン」植草一秀だった。私はその植草を2009年に批判したが、その記事に示した私の主張は今も変わらない。残念なのは、当時肯定的に言及した飯田哲也が全く信用ならない人間だったことが飯田の2012年の大阪府市特別顧問就任と「日本未来の党」からの衆院選出馬などで明らかになったことだが。
- 予防原則を解さず「地球温暖化懐疑論」を振り回す植草一秀 - kojitakenの日記(2009年12月28日)
地球温暖化論は仮説ではあるが、時の経過とともにその確からしさが増してきている仮説であり、それに対する説得力のある反論はこれまでのところ提示されていない。かつこの仮説が正しいならば、それへの対策を講じなければ将来の人類及び地球の生態系は致命的なダメージを蒙る。だから対策を講じなければならないという立場だ。欧州の左派政党はたいていこの立場に立ち、保守政党であってもそれを渋々ながら承認している。しかしアメリカの共和党は「問題があることさえ認めようとしない」とクルーグマンは指摘する。
しかしアメリカにも増して絶望的なのは日本であって、この国はリベラル・左派でさえもアメリカの共和党と変わらない熱心さをもって「問題があることさえ認めようとしない」のである。