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古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

トランプは「旧保守」というより、むしろサッチャーに近いのではないか。

備忘録「庶民代表」サンダース、「旧来保守」トランプ、「グローバルインテリ」クリントンの三つどもえ : 広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)(2016年11月25日)

備忘録「庶民代表」サンダース、「旧来保守」トランプ、「グローバルインテリ」クリントンの三つどもえ

「トランプ当選」でほっとしている場合ではない・・反TPPから反新自由主義へ ふんどしを締めなおそう

アメリカの大統領選挙は、結局の所、多国籍企業(大都市上流インテリ)+労組を主な支持基盤とするクリントンを、旧来の土豪(=不動産王二代目)で国内産業を主な支持基盤とするトランプが破ったという構図になると思います。クリントンに入るはずだった労組の票も、格差拡大を背景に結局伸び悩んだことは大きい。

サンダースは、「庶民の生活」を第一に押し出しており、この点は両者とは異なります。

今のアメリカは、「庶民代表」サンダース、「旧来保守」トランプ、「グローバルインテリ」クリントンの三つどもえの構図になっていると言えるでしょう。

トランプは、旧来の土豪であり、金はあるが、品はない、という日本でも、どこでも居そうな地主兼地方政治家というタイプではないかとおもいます。
日本に対しても、アメリカの特に旧来産業の利益を追求するためには、容赦はしないでしょう。

これに対して、ヒラリー・クリントンは、グローバルインテリの代表である。ジョージ・w・ブッシュ父子もこれに似た面があります。

アメリカ国民」と言うより、「多国籍企業の利益」のために動く政治家であると言えます。その際の大義名分として、人権なり民主主義なりがあるわけです。この大義名分がないと逆に、クリントンにしても、ブッシュにしても求心力を失ってしまいます。この点、露骨に「アメリカ国民の利益」(実際は、特に旧型産業の利益)を追求するトランプの場合は、その「アメリカ国民の利益」そのものが求心力になります。

日本の場合は経団連小泉純一郎さん、またかつての民主党の右派が、ヒラリーに近いでしょう。
自民党の旧来の支持基盤である地方とは利益の相違があります。
経団連の場合は、ヒラリーやウォール街と「多国籍企業の利益」という共通点で利害が一致します。
そして、安倍総理が、与党復帰後にTPPに前のめりになったのも、説明は付く。
すなわち、野党時代は、地方の農民などの票が重要だったが、与党に復帰してからは経団連からも支援を
再びもらえるようになった。そこで、TPP推進に転じたのです。また、日本の場合は、アメリカよりはまだ重厚長大産業が健在なために、この点でもTPPを推進する動機は強くなります。

ただ、安倍総理(野党時代)にしても、トランプにしても、新自由主義に本気で反対してTPPに反対していたわけではない。

というより、両者とも、大昔の特に重厚長大産業に勢いがあった時代を取り戻すことを狙っているといった方が良いでしょう。

安倍総理は、原発や武器を売りまくることで重厚長大産業にカンフル剤を与える。
トランプの場合は日本に二国間協定で無茶を要求してアメリカの旧型産業の護持を図るということでしょう。

まとめると

クリントン=グローバルインテリの代表。新自由主義的経済政策+リベラル(ジェンダー平等、民主主義)の抱き合わせ
日本経団連=同じくグローバルインテリの代表+一部重厚長大産業(アメリカよりは重厚長大が生き残る)

トランプ=地方の土豪の代表 重厚長大産業の護持 土豪の利益の保持、再分配の具体策は薄い。政治的には差別主義。
安倍晋三=同じく地方の土豪の代表 重厚長大産業に原発や武器輸出でカンフル剤、重厚長大産業比率
が高い地域の土豪の支持。社会保障は切り捨て。政治的には権威主義

というところになります。

他方で、
サンダース=庶民の生活が第一。リベラル(平等、民主主義)。
となります。
問題は、日本の野党、特に民進党です。

民進党もまだまだ、クリントンに近いイメージを醸し出してしまっています。いまのスタンスを見てもすなわち、新自由主義そのものを批判する視点でTPPに反対しているわけではないように見えてしまうのです。
支持基盤も大都市の上流インテリ+大手企業労組が中心です。

サンダースに相当するのは日本では日本共産党でしょう。

民進党はどちらかといえばクリントンになってしまっている。
大都市の「上流インテリ+大手企業労組政党」から脱皮しきっていないように見えるのです。

民進党クリントンイメージを打ち消せない限り、総理を破ることは難しいでしょう。
他方で、民進党クリントンへの失望の勢い余ってトランプに期待しすぎてしまうのも危険ではないでしょうか?


「『庶民代表』サンダース」と「『グローバルインテリ』クリントン」というのはその通りだと思いますが、トランプを「旧来保守」と括ってしまうことには危険性を感じます。

というのは、1988年に書かれた森嶋通夫の『サッチャー時代のイギリス』を28年後の現在に読んで私がもっとも注目したことは、一般には「旧来保守」に対して「新保守」とみられているであろうマーガレット・サッチャーと、ドナルド・トランプとは、対立点より親和性の方がずっと高いということだからです。



たとえば、トランプはサンダースを思わせる再分配を打ち出しているなどと一時言われたことがありますが、実際にトランプが唱えているのは金持ち減税であって、サッチャーが1987年の総選挙に勝ったあとにやらかしてイギリス経済にダメージを与えたのも金持ち減税(1988年)でした。そのサッチャーは、1987年の総選挙(サッチャーは勝手に同年6月の解散総選挙を決めていた)を前にして、それまでの新自由主義政策を転換したかのように、教育、社会保障、住宅建設等への予算の追加を発表しましたが、それは総選挙に勝つための釣り餌に過ぎませんでした。

また、トランプは「反エスタブリッシュメント」のイメージが流布していますが、サッチャーだってエスタブリッシュメント層の出身でも何でもありません。むしろ、不動産王の二代目であるトランプの方がよほど恵まれた出自であったともいえます。

また、トランプは田中角栄を思わせる公共事業増強を打ち出していますが、角栄が打ち出した「福祉元年」に当たる政策はトランプには何もありません。トランプが、ただでさえどうしようもなく広がったアメリカ社会の格差をさらに広げることは、絶対に間違いありません。

そんなトランプに、「小沢信者」を中心とする一部「リベラル」が肩入れするのは、「大いなる倒錯」であるとしか私には思えません。

TPPをトランプが反故にした一件に関していえば、上記「一部リベラル」は「反TPP原理主義」に陥っていたとしか言いようがありません。TPPさえぶっ壊してくれるなら、日米FTAでトランプがTPP以上に獰猛な「ジャイアン」的要求を突きつけてこようが構わないのか、と呆れてしまいます。その倒錯ぶりたるや、TPP発効が絶望になったのに、惰性でTPP関連法案を通そうとしている安倍政権と好一対であって、どっちもどっちだよなあとため息が出るばかりです。

思うのですが、「旧来保守」対「新保守」という、あたかもそこに対立構造があるかのように思わせる分類に無理があるのではないでしょうか。

実際には「旧来保守」と「新保守」との間には、対立点より共通点の方がずっと多い。両者の区切りは、本当はもっと曖昧なのではないかと思います。それが広く理解されていないために、「クリントンよりトランプの方がマシ」という妄論を信じてしまう「リベラル・左派」が後を絶たないのではないでしょうか。