http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20170523/1495496969#c1495541039
id:WatashiNingenDeAritai 2017/05/23 21:03
日独伊三国同盟と大政翼賛会によって帝国日本を破滅の世界戦争に駆り立てていった近衛文麿の「新体制運動」は「リベラル」だったんだね。たしかに「国民健康保険」(1938)や「国民学校」(1941)を作ったのは近衛が首相のときだったけどね。(国保は第一次近衛内閣の「国民精神総動員運動」の時期)
まあ「新体制運動」は看板こそ近衛文麿ですが、実際には岸信介あたりが仕切ったんじゃないかと私なんかは勝手に思ってますけど。岸は1939年に商工次官に就任し、翌1940年に成立した第2次近衛内閣の商工大臣への就任を要請されたんですよね。
- 恐るべし! 国家社会主義者・岸信介 - kojitakenの日記(2014年7月22日)
岸信介は「革新官僚」として統制派の軍人たちとつながりが深く、だから東条英機内閣の商工大臣になったんですが、近衛文麿はその岸の統制経済政策を取り入れる一方、1937年の第1次内閣時代に行われていた2.26事件の真崎甚三郎の軍事裁判(軍法会議)の時には、皇道派の軍人たちに近い極右の親玉ともいうべき平沼騏一郎一派*1に易々と屈して「真崎無罪」を容認してしまったんですね。
「君側の奸」という言い方を私は大嫌いですが、百歩譲って「君側の奸」という言い方を認めるならば、近衛文麿以上にこの言葉にぴったり当てはまる人間はいなかったように思います。近衛は西園寺公望にも昭和天皇にも気に入られていて、内心真崎を厳罰に処してもらいたかったに違いない昭和天皇も、真崎を有罪にさせるまでの力は持ち得ませんでしたから。
最近の政治家でいえば鳩山由紀夫ですかね。戦前の「崩壊の時代」の崩壊を決定的にしたのが近衛なら、現在の「崩壊の時代」の崩壊を決定的にしたのは鳩山だと私は思います。
松本清張の『昭和史発掘』全9巻(文春文庫新装版,2005)を今日読み終える予定ですが(残り60ページほどになった)、昨日読んだばかりの清張の文章が印象に残りました。以下引用します。
(真崎甚三郎の=引用者註)判決文の謄写を天皇が手もとに残して置くというのは、いかにも曾て例のないことだったであろう。この真崎判決文こそは、法的な上でも実際の上でも「二・二六事件の終結」を意味する。天皇にとっても、また事件当時の参謀次長杉山元にとっても、感慨深いものだったにちがいない。
この「真崎無罪」判決と「大赦詔勅」論とのからみ合いでも知られるように、皇道派の実力は平沼騏一郎一派が継承し、近衛内閣に圧力をかけ、事件発生時の天皇の気持ちをよく知る木戸や杉山まで真崎裁判について軟化させている。このへんに東京軍法会議の限界と、破滅戦争に向かう足音が聞える。だが、「真崎無罪」判決文に対し一言の不満も洩らせずに謄写を手もとに保存する天皇の姿に、天皇の権限をも無力化している天皇制の本質がある。
ともあれ、「二・二六事件」はこうして終った。そしてこの頃、二・二六の初年兵たちは、歩一歩三の二年兵として応急派兵され、北支の戦線でたたかっていた。もと安藤隊だった歩三第六中隊など、この戦闘でほとんど全滅したという。
(松本清張『昭和史発掘』第9巻(文春文庫新装版,2005) 322-323頁)
- 作者: 松本清張
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この清張の文章を読んで、昨今の「退位問題」で安倍晋三と水面下で激しいバトルを繰り広げたあげく安倍に敗れた現天皇を連想しました。極右の政治権力に対抗するのに天皇に依存する「人治主義」的な行き方の限界を感じます。
余談ですが、天皇の退位問題に関して、どうして共産党(や社民党)は、あのだらしない民進党よりも早くから「特例法」で政権と妥協してしまったんですかね。不思議でなりません。
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017030301093&g=soc
特例法、典範に根拠規定=共産柔軟で調整進展も−天皇退位
天皇陛下の退位をめぐり、衆参両院の正副議長は3日、与野党代表者の全体会議を参院議長公邸で開いた。共産党は「皇室典範改正が筋」と主張する一方、政府や自民、公明両党が検討する特例法も排除しない意向を表明。自公は典範改正による恒久制度化を主張する民進党に配慮して、特例法の根拠規定を典範に盛り込むことを検討しており、共産党の柔軟姿勢により、こうした方向で調整が進む可能性が出てきた。
席上、共産党の小池晃書記局長は「退位の立法化は、憲法の規定に適合すれば、今後の在り方においても先例になる」と述べ、特例法も容認し得るとの立場を明言。自民党の高村正彦副総裁が2日の全体会議で、特例法について「将来の天皇の退位を否定しているものではない」と発言したことを捉え、「ここに注目した」と語った。
これに関し、共産党幹部は「退位の要件を事細かに典範に書き込むことは難しい。退位は与野党が対立するテーマではない」とも指摘、自公の主張に一定の理解を示した。
与野党合意には、民進党の対応が焦点となる。同党の野田佳彦幹事長は会議後、記者団に「あくまで典範改正をすべきだという立場で主張している」と強調。同時に「国民の総意に基づく天皇の地位だから、なるべく立法府が合意することが基本だ」と合意形成を探る考えも示した。
(時事通信 2017/03/03-18:34)