スペイン語ではvとbを区別しない話は、1992年暮から翌1993年の年初にかけて初めての外国旅行先としてスペインのアンダルシア地方に行った時、というか行く前に事前に調べて知った。
それ以来、たとえばロッシーニの代表作とされる歌劇を「セヴィリアの理髪師」などと表記されているのを見るたびに(昔のクラシック音楽の世界ではこんなのが平気でまかり通っていた)目くじらを立てたものだ。
もっとも、現在普通に使われている「セビリアの理髪師」も大いに怪しくて、これは「セビージャの理髪師」とすべきところだろう。ここらへんはサッカーファンの方のほうが詳しいかもしれない。
上記リンクの記事の著者は、表記の好みの順番を「セビージャ>セビーリャ(セビーヤ)>>セヴィーリャ>セビリヤ」と書いている。しかし、「セビージャの理髪師」を検索語にしてネット検索をかけても、そんな表記を用いているサイトは全然みつからない。私は昔から日本におけるクラシック音楽の世界の後進性は想像を絶するほど酷い*1と思っているが、その一例といえる(?)かもしれない。
ところで最初のリンク先の後半部分には笑ってしまった。
実は、今回の「ヴ」消滅について最初に知ったのは、NHKの小泉知世「世界から『ヴ』が消える」という記事を読んだときだった*3。それによると、最近「ヴ」を使わなくなった国名には「ヴェネズエラ」(「ベネズエラ」)のほかに、「エル・サルヴァドル」(「エルサルバドル」)、「ボリヴィア」(「ボリビア」)もある。これらの国名は西班牙語なので、そもそも「ヴ」は不必要且つ不適切だったわけだ。これに限らず、日本の外務省は西班牙語を敵視しているんじゃないかとも思えてくる。それも、ヒスパニックを敵視するドナルド・トランプが米国に登場する以前からずっと。そもそも、西班牙本国も、エスパーニャでもなく(安土桃山時代以来の)伝統的な表記であるイスパニアでもなく、英語風のスペイン(Spain)だ。Mexicoも西班牙語読みに従ったメヒコではなく、英語が崩れた「メキシコ」*4。また、Algentinaも西班牙語に従ったアルヘンティナではなく、英語が崩れた「アルゼンティン」(「アルゼンチン」)*5。「ヴ」問題よりも、この西班牙語に対する異様な敵意の方が不思議だ。
話は変わって、独逸語に関しては、「ヴ」の問題はVかBかではなく、VかWかということで現われてくる*6。例えば、
マックス・ウェーバー/マックス・ヴェーバー(Max Weber)
`ウィトゲンシュタイン/ヴィトゲンシュタイン(Wittegenstein)
どちらが適切なんでしょうか。識者の御教示を仰ぎたいです。そういえば、『ベルリン天使の詩』*7の映画作家は、ヴィム・ヴェンダースと書かれてもウィム・ウェンダースと書かれることは殆どないように思う。まあ、「ビム・ベンダース」という表記を見たときには殺意が湧いた、ということはあるけれど。
そういやナチスに政治利用され、本人もユダヤ人を差別するレイシストだったRichard Wagnerを「バーグナー」と書かれたら、世の「ワグネリアン(ヴァグネリアン)?」諸氏は「殺意が湧」くんだろうなと思ってしまった。私はワグネリアンじゃないからどうでも良いけど(笑)。