新自由主義者の代表格である大阪府知事の吉村洋文が、西浦博・北海道大教授らに対抗して、「なんとか新型コロナの感染者数をそこそこ抑えながら経済を回したい」という願望を抱き、その結果、客観性よりも自らの願望を優先して中野貴志の「K値」の仮説に飛びついたものの、早くも「K値」の化けの皮が剥がれ始めているのが現状ではないか。昨日も書いたが、私はこのように考えている。
そこで、これまでの経緯をたどってみた。安直だとのお叱りを受けるかもしれないが、まずWikipedia「西浦博」の項より抜粋する。
8割おじさん[編集]
流行拡大を防ぐには人との接触を8割削減することが必要である、と3月の初めから提唱し[17]、インターネット上で「8割おじさん」と名乗るようになった[18]。名付け親は押谷である[17]。科学雑誌『サイエンス』のウェブサイトに掲載されたニュース記事では、「80% uncle」と紹介された[19]。
接触減の割合をめぐってせめぎ合いがあった。とりわけ、4月7日、新型インフルエンザ等緊急事態の要件に該当するか諮問を受け、第2回基本的対処方針等諮問委員会[註釈 3]が開催されたが、審議当日の早朝、西浦は会長の尾身茂と委員の押谷からそれぞれ電話で連絡を受け、押谷は「どこまで頑張れるかわからないけれども、8割おじさんの願いが叶うように精一杯やってみよう」と述べたという。また、西浦らは基本再生産数を「2.5」とする前提で資料を作成していたが、審議の場に提出された資料では値が「2.0」に書き換えられていたという。提出された資料の値に疑問を感じた尾身から、西浦に「これで大丈夫なのか?」と確認の電話があったことで、西浦に無断で資料の値が書き換えられたことが発覚したという[17]。同日夜、安倍晋三内閣総理大臣は、緊急事態宣言発出後の記者会見で「専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます」と発言した[20]。
4月15日の記者意見交換会で、対策を全く取らない場合、日本国内では約85万人が人工呼吸器や集中治療室での治療を要する重篤患者となり、重篤患者の49%が死亡したとする中国のデータなどに基づけば、うち約42万人が死亡するとの試算を公表した上で、人と人の接触を8割減らせば、約1か月で流行を抑え込めるとした[21]。ただし、菅義偉内閣官房長官は翌16日、西浦の試算は「厚労省の公式見解ではない」としている[22]。
ニューズウィーク日本版6月9日号に「「8割おじさん」の数理モデルとその根拠」を特別寄稿し、のちに同ウェブサイト版でも公開された[23]。また、中央公論7月号のインタビュー記事で「オリンピックが延期されることになった3月24日あたりから、小池百合子都知事がイベント自粛の要請など、どんどん手を打ってくれて、それに従って実効再生産数が落ちていきます。さらに、国の緊急事態宣言が出た後は、都市も地方も含めて皆さんが協力的に接触を削減してくれた成果もはっきり出ました」と振り返った[24]。
人類生態学者の中澤港神戸大学大学院教授は、8割減の合理性について西浦の理論的背景に触れつつ高く評価した[25]。
物理学者の中野貴志大阪大学核物理研究センター長とウイルス学者の宮沢孝幸京都大学ウイルス・再生医科学研究所准教授は、6月12日の第2回大阪府新型コロナウイルス対策本部専門家会議[26]にオブザーバーとして出席し、府の感染のピークは3月28日頃だとして4月7日に発令された緊急事態宣言に伴う休業要請などの効果は薄かったと指摘した。これに対して会議の座長で感染制御学が専門の朝野和典大阪大学医学系研究科教授は異論を唱え「今日の議論だけで自粛、休業が無意味だったとの結論にはしていただきたくない」と述べた[27]。
社会工学者の藤井聡京都大学大学院工学研究科教授は、西浦作成のグラフを引用し、西浦・尾身らによる「GW空けの緊急事態延長」支持は「大罪」であると主張した[28]。これに対して、感染症専門医の岩田健太郎神戸大学大学院医学系研究科感染治療学分野教授は、「藤井聡氏公開質問状への見解」を発表し、西浦が日本の感染対策にもたらした貢献はものすごく大きいとしたうえで、藤井の議論の誤りを詳しく指摘した[29][30][31][32]。この指摘に対して藤井は、岩田の指摘は自身の主張の誤解に基づくものであるとした上で、緊急事態宣言の効果はあくまで小さく、むしろそれに先立つ出入国の制限(いわゆる「水際対策」)が感染拡大の阻止に大きな役割を果たした等の主張を行い、一律的な自粛措置に対する疑念を改めて提示した[33][34][35][36]。
引用文中赤字ボールドで示したのは、一連の論戦で西浦博批判の論陣を張った学者だが、中野貴志と藤井聡はいずれも感染症の専門家ではない。中野は核物理学者だし、藤井に至っては「社会工学者」であって、理系と文系の境界領域の人だ。藤井はMMTの論者としても知られるが、右翼でもあり、2012年末から2018年末まで安倍内閣の官房参与を務めていた。山本太郎との接点もあり、昨年の参院選直後に下記記事で山本に「右」からのラブコールを送ったこともある。
何やら背景からしてきな臭い。藤井聡についてはこのくらいにしておくが、大阪府知事・吉村が中野貴志の「K値」に飛びついた背景にも、お膳立てした人たちが大勢いると考えてほぼ間違いないだろう。
上記Wikipediaに、6月12日に開かれた第2回大阪府新型コロナウイルス対策本部専門家会議で中野教授らが「緊急事態宣言には効果がなかった、その前の3月下旬にピークアウトしていた」と指摘して、知事・吉村がそれにうなずいた件が出ているが、これは当時TBSの「news23」でも取り上げられた。私は、吉村びいきのTBS系(毎日放送系)が好き勝手なこと言ってやがる、と苦々しく見たものだ。当時は吉村人気が絶頂だった。最近はさすがに吉村人気と維新の政党支持率は下がり気味のようだが。
吉村と中野教授については、先月から「週刊新潮」が繰り返し取り上げていた。
後者の記事に吉村の本音が出ているので、以下に引用する。
西浦モデルに批判的検証を
最も検証すべき対象は、言うまでもない。
「第1波を必死に抑え込もうとした大本は、やはり西浦モデルです。人と人との接触を8割削減しなければ感染者は指数関数的に増え、取り返しがつかなくなると言われ、緊急事態宣言を出して抑え込むことになった。いま振り返ると、感染のピークは3月28日だったとわかります。でも、すでにピークアウトしていた4月15日、8割削減しなければ42万人が死ぬ、という試算が出された。当時、まだ新規感染者数が増えていたので、42万人死ぬと言われたら当然、抑え込もうという話になります。5月1日の専門家会議でも“8割削減が十分でない、6割削減では感染者はこのくらいしか減らない”という西浦モデルが登場し、緊急事態宣言を1カ月延長しよう、ということになりました。それは違うのではないかと僕は感じて、出口戦略を示すために“大阪モデル”を作り、国にもいろいろ働きかけた。その結果、宣言が5月末まで漫然と延びることは避けられました」
その時点で、数々の疑いが、知事の心中に噴出していたようなのだ。
「5月末時点から振り返れば、すでに収束している状況で緊急事態宣言の延長を決めていた。感染症対策の観点だけで見るならともかく、それが本当に正しかったのか。検証が必要だと思います。また、仮にもう1カ月再延長していたら、社会、経済を止めるダメージがさらに甚大になった。そこに対し“敬意をもった批判的検証”を、というのが僕の考えで、次の波に備えて検証しないまま同じことを繰り返せば、日本は国家として危機的状況に陥ると思う。ですので、西浦モデル以外の指標がないかと検討し、そのなかでK値モデルが出てきたのです」
大阪大学核物理研究センター長の中野貴志教授が考案した「K値」。直近の感染者数を累積感染者数で割り、感染拡大率の減速を示す指標で、簡単に述べると、K値を見るかぎり日本では、感染は自然減の傾向が強く、自粛の効果が見られないという。
知事の話を続ける。
「僕がK値に注目したのは、数字がすごく合っていたからです。西浦モデルはそうなっていません。“42万人死ぬ”とおっしゃいましたが、実際には900人です。現実に8割削減できたのかどうか僕らにもわかりませんが、緊急事態宣言が延長されたということは、8割に届いていなかったのだと思う。でも42万人、亡くなっていません。それなのに、西浦モデルがどのように計算されたのか、専門家がだれも批判しません」
国の専門家会議は、傷をなめ合う仲良しクラブになってしまっている、ということだろうか。
「国の経済を全部止めるのは、コロナに感染しなくても仕事が失われる人がたくさん生じる以上、国家が沈没するかどうかというくらいの重大局面だと思います。だから、なにがどこまで必要なのか、しっかり検証する必要があるのに、批判的な意見を言う人がだれも出てこない。そこに僕は危機感を抱いています。“ああすべきじゃなかった”という文句ではなく、学術的にどうなのかという専門家同士の議論を、ぜひオープンな場でやってほしい。未知のウイルスだったのだから、自粛が無駄だったとは思いません。しかし西浦モデルだけに頼らず、K値やそれ以外の指標があるなら、それも含めて知恵を出し合って国の方向性を決めるべきでしょう。そうしておかないと、新たな波が来たときジタバタして、また西浦モデルに頼り、8割削減しないとこうなる、というグラフを見せられ、何十万人死にます、と言われたら、もう1回自粛しよう、となると思う。でも、それでいいのか。落ち着いているいまだからこそ、僕は西浦教授に敬意を表しながら、批判的検証を行うのが健全だと思う。それも、本来は国でやってもらいたい」
「週刊新潮」2020年7月2日号 掲載
出典:https://news.yahoo.co.jp/articles/be15c811d200b1c87ea08044efd99a757a513dba?page=2
上記「週刊新潮」のインタビューで、吉村は「西浦教授は42万人死ぬといったのに900人しか死んでいない。だから西浦教授の仮説は間違っていた。一方、中野教授の『K値』は結果とよく合っている」と言っているのだが、私には理解不能な言い分だ。なぜなら、西浦教授が「42万人死ぬ」と言ったのは、何も対策をとらなかった場合の話だからだ。
同じ記事で、「週刊新潮」の記者も、吉村の言い分を紹介する前の段落で下記のように書いている。