kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「トランプ優勢」を報じ続けた「日本のメディア」、その大きすぎる問題(平河エリ@現代メディア)

 今回のアメリカ大統領選挙で私が主な情報源としたのは、平河エリ氏と三春充希氏のツイートだった。マスメディアはテレビが全然ダメで、それどころか後述のように、朝日新聞にも大いに問題があった。ことにテレビは、今になってもまだ「トランプに逆転の手立てはあるか」などと、TBSやテレビ朝日でもそんなことを言っている。各メディアのスタンスの差よりも媒体の種類による差の方が大きく、産経新聞でさえ1面の見出しに陰謀論を煽る見出しはつけなかったが夕刊フジはひどいもので、民放テレビと同等だった。民放テレビに出てくるコメンテーターたちは、ことに木村太郎橋下徹が極端にひどい悪例だったようだが、手嶋隆一までもが(といっても私は昔からこの人が大嫌いだが)トランプが発信する陰謀論増幅器と化す醜態を晒していた。概して、大手新聞>NHK>民放・夕刊紙>ネットの順番だった。とりわけネットでの陰謀論の蔓延は目を覆うがありさまだった。ネットの中には前記平河氏や三春氏のように冷静な情報を発信する人たちがいた。ネットの言論には幅があって、俗悪な連中が占める比率が極めて高いけれども、朝日新聞までもが妙な流れに引きずられていく中、冷静な情報を発信できるすぐれた人たちがいるのだ。

 その平河エリ氏が「現代ビジネス」に下記の寄稿をしている。

 

gendai.ismedia.jp

 

 以下、日本のメディアに関する部分を引用する。

 

午後4時半。バイデン候補にとって有利な状況が次々と現れたにもかかわらず、トランプ大統領は一方的な「勝利宣言」を行った。朝の段階では「勝利宣言はまだしない」と語っていたのに、である。彼が語ったことには破壊的に意味がなく、なんの根拠もなかった。

 

しかし、ここで奇妙なことが起こる。「勝利宣言」を報道した日本のマスコミの中に、「トランプ大統領が優勢だ」「だから勝利宣言をしたのだ」という報道や、コメンテーターが少なからずいたのだ。

 

テレビ局だけではない。何人かの現職の国会議員や大臣経験者すら、トランプ候補が優勢である、とツイートした。

 

しかし、少し考えればわかると思うが、もし仮に選挙で正当にトランプ大統領が勝利する見込みがあったなら、あのように馬鹿げた「勝利宣言」をするはずもない。つまりあの勝利宣言は、自身が負ける可能性が高いことを熟知した上でなされたものだった。 

 

少なくともあの時点で「トランプ優勢」といえないことは明白で、注意深く開票状況を見ればバイデン候補の優勢は明らかだった。最大限トランプ大統領に好意的に考えても「情勢不明」程度だろう。

 

メディアは選挙前から、世論調査やデータも読まない多くのコメンテーターが、「隠れトランプ」という根拠不明の言説に乗っかってトランプ優勢を主張し続け、開票が進む中でも全く状況を理解しないまま、大統領の妄言に裏書きを与えたのではないか。

 

出典:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77173?page=3, https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77173?page=4

 

  上記に続く下記の部分(赤字ボールドで示した)でただちに思い出したのは、朝日新聞デジタルのとある記事の見出しだった。これを見て瞬間、今回の大統領選挙に関して朝日新聞を参照する気が失せ、情報はもっぱら平河氏と三春氏のツイートに頼ったのだった。

 

世論調査は間違えたのか?

 

トランプ大統領の勢いを伝える報道と同時に、「世論調査が『また』間違えた」というような報道がなされた。

 

たしかに前回ヒラリー・クリントン氏の勝利の可能性が高いと報道したように、今回、ほとんどのメディアはバイデン候補がかなり優勢に進めるだろうと見られていたなか、予想以上に結果が確定するのに時間がかかったのは事実である。

 

世論調査は間違えたのか?」という問いは意味がない。世論調査はあくまで世論調査でしかない。重要なことは、世論調査から導き出された統計モデルや予測がどの程度正確であったか、ということだ(世論調査単体で言うなら、前回のクリントン候補もトランプ候補より多くの票を獲得した。破れたのは選挙制度の問題である)。

 

出典:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77173?page=4

 

 大統領選の情勢分析の部分は引用を省略し、日本のメディアの問題点に触れた箇所から再び引用する。

 

トランプから国を守った「壁」が、日本にはない

 

今回の選挙戦の勝因を簡単に分析することは出来ない。しかし、彼の再選を阻止した「壁」の一つに、主要メディアとプラットフォームの対応が挙げられるだろう。

 

2016年、トランプ大統領を滑稽なアウトサイダーとして報じることで、トランプ大統領の当選の一因となったと言われた主要メディアは、この間、一貫してトランプ大統領の嘘を批判し続け、嘘と不正にまみれた4年間は懲り懲りだという姿勢を示した。

 

ニューヨーク・タイムズは選挙戦の直前にも、トランプ大統領が税金をほとんど払っていないというビッグニュースを報じ、CNNやABCなどテレビ局は大統領が「我々は勝利している」など主張したスピーチは「これは嘘であり、報じる必要がない」と放送を中断した。

 

FacebookTwitterなどのプラットフォームは、2016年においてフェイクニュースを拡散させる温床となり、またケンブリッジ・アナリティカにより利用されたとして議会からも厳しく追求された。

 

今回の選挙戦において、彼らは批判されながらも陰謀論者のグループを削除したり、誤った情報のツイートには注釈をつけ、非表示とするなど、嘘を拡散しないための一定の努力を行っていた(不十分だった可能性はあるが)。

 

翻って、日本はどうだろうか。誤った「トランプ優勢」報道を流し続け、コメンテーターは何一つ現実を理解しないまま、願望とも妄想とも取れるコメントを公的な放送波に載せて発言した。「不正投票があった」というトランプ大統領の主張に理解を示すコメンテーターすらいた。

 

また、日本で最大級のコミュニティの一つであるYahoo! ニュースのコメント欄を見に行けば「不正投票」を信じるコメントが溢れていることがわかるだろう。

 

残念ながらこれらの不正投票論は容易に陰謀論と結びついてしまう。

 

2016年から得られる教訓は、メディアとデジタルプラットフォームの努力なくしては、嘘がはびこり、嘘をつくことで利益を得てしまう人が出てきてしまうということだ。

 

アメリカは過去の教訓から学び、トランプ大統領の再選を阻止したが、日本も同じように、メディアとプラットフォームが嘘を止める防波堤となるという義務を果たさなくてはいけない。海外情勢だけではなく、日本政治に対する報道姿勢も同じだろう。

 

4年に渡る「トランプ・ショー」は終わったが、嘘と分断を持って人気を獲得しようとする政治家は、彼が最後ではないだろう。そして、日本にあっても米国にあっても、それを増幅するのか止めるのかの責任が、各社に問われているのである。

 

出典:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77173?page=8

 

 残念ながら日本ではメディアが嘘を発し続けた安倍晋三を止めることはできなかった。結局、安倍晋三を止めたのは新型コロナウイルス感染症だった。新型コロナ対策の失敗によって安倍政権は潰れた*1

 菅義偉も、学術会議の任命拒否の件に端的に見られる通り、その強権的な体質については安倍晋三に一歩もひけをとらない。ただ、菅義偉には安倍晋三と同様に知性に大きな問題があることが、国会論戦におけるしどろもどろの答弁などではっきりしてきたし*2、安倍と違って「血統」に恵まれていないから権威主義的右翼に熱狂的に支持される度合いは安倍よりもはるかに低い。こんな菅程度にさえ立ち向かえないようならもう本当にどうしようもない。今こそ奮起の時だ。

*1:だが安倍の体調悪化はどうやら一時的だったらしく、政界に対する影響力もまだまだ保ち続けている。とはいえ米大統領がトランプからバイデンに代わり、新型コロナウイルス感染症が収まる気配もないから、近い将来に安倍が自民党総裁・日本国総理大臣に返り咲くことはないだろう。しかし数年後になるとそれもわからない。

*2:自民党総裁選の頃から、菅は対立候補岸田文雄石破茂と比較して議論の能力が著しく低いことが指摘されていた。