私自身は正月休みにはテレビのドラマなど一本も見なかったが、テレビ朝日で放送された「相棒20元日SP」の脚本を書いた太田愛氏のブログ記事が注目を集めた。
以下引用する。
2022-01-01 23:14:00
テーマ：放送予定
右京さんと亘さん、そして豪華なゲストの皆様の顔合わせで、お正月らしい、華やかなＳＰとなりました。脚本が撮影現場でかわっていくことはよるあることで、今回も楽しいアドリブ満載でした。
ただ、それとは全く別に一点だけ脚本家の立場から申し上げておきたいことがございます。
右京さんと亘さんが、鉄道会社の子会社であるデイリーハピネス本社で、プラカードを掲げた人々に取り囲まれるというシーンは脚本では存在しませんでした。
あの場面は、デイリーハピネス本社の男性平社員二名が、駅売店の店員さんたちが裁判に訴えた経緯を、思いを込めて語るシーンでした。現実にもよくあることですが、デイリーハピネスは親会社の鉄道会社の天下り先で、幹部職員は役員として五十代で入社し、三、四年で再び退職金を得て辞めていく。その一方で、ワンオペで水分を取るのもひかえて働き、それでもいつも笑顔で「いってらっしゃい」と言ってくれる駅売店のおばさんたちは、非正規社員というだけで、正社員と同じ仕事をしても基本給は低いまま、退職金もゼロ。しかも店員の大半が非正規社員という状況の中、子会社の平社員達も、裁判に踏み切った店舗のおばさんたちに肩入れし、大いに応援しているという場面でした。
同一労働をする被雇用者の間に不合理なほどの待遇の格差があってはならないという法律が出来ても、会社に勤めながら声を上げるのは大変に勇気がいることです。また、一日中働いてくたくたな上に裁判となると、さらに大きな時間と労力を割かれます。ですが、自分たちと次の世代の非正規雇用者のために、なんとか、か細いながらも声をあげようとしている人々がおり、それを支えようとしている人々がいます。そのような現実を数々のルポルタージュを読み、当事者の方々のお話を伺いながら執筆しましたので、訴訟を起こした当事者である非正規の店舗のおばさんたちが、あのようにいきり立ったヒステリックな人々として描かれるとは思ってもいませんでした。同時に、今、苦しい立場で闘っておられる方々を傷つけたのではないかと思うと、とても申し訳なく思います。どのような場においても、社会の中で声を上げていく人々に冷笑や揶揄の目が向けられないようにと願います。
（「脚本家/小説家・太田愛のブログ」より）
「はてなブックマーク」の人気コメントを見ればわかる通り、脚本家・太田氏の意見表明を評価し、監督らによる演出を批判する声で埋め尽くされている。
もちろんそれはそれで良いし、そもそも私は当該のドラマを見ていない。太田氏が意見を表明したことも評価されてしかるべきだ。しかし、脚本家側に立って演出家やテレビ局（テレビ朝日）を批判する意見一色という状態には「何かが足りない」気がした。そんな時に下記のツイートを知った。
元日のドラマ『相棒』で労働争議の描かれ方が話題なので見た。放送後に脚本家が「当事者らを傷つけたのでは」と心配されていた。その誠実さは尊敬するが、当事者と労働組合が会社前で抗議するシーンがあって良かったと私は思う。集団で、我を忘れて、いきり立って何が悪い。労働争議とはそういうもの。 pic.twitter.com/8L5oik6cGZ
— 須田 光照 (@sudamitsuteru) 2022年1月2日
そうだ。こういう観点からの意見発信が欠けていたのだ。
「集団で、我を忘れて、いきり立って何が悪い。」
半世紀前にはこういう意見表明が当たり前だったように思う。
人々はいつしか牙を抜かれていった。
たとえば、新型コロナ第6並みの感染拡大に関する下記米重克洋氏のツイートは、私には。正当な意見ではあるけれども、「同情」という表現ではまだまだ生温いのではないか、沖縄県の玉城デニー知事が怒るのは当然ではないかと思った。
これは正直同情。沖縄に限らず、三沢、横須賀、富士、岩国と基地内で感染者数が大勢出ているのにそれ以上の情報がろくにない。米軍のコロナ対応は少々おかしいのではないか。
— 米重 克洋 (@kyoneshige) 2022年1月3日
沖縄知事「激しい怒り」 オミクロン市中感染 米軍の特権廃止訴える(琉球新報)https://t.co/1M1tOZFWT8
しかし、上記ツイートについたレスは、私とは逆の側から米重氏を批判するものばかりだった。以下に悪例をいくつか挙げる。
コロナに脅える日本人こそ、アメリカ人からすれば可笑しいのでは？
— GORILLA (@GORILLA77435817) 2022年1月3日
アメリカ様を崇拝しておられるらしいツイート主は、コロナによってアメリカ人の平均寿命が1.8年も短くなったことをご存知ないのだろうか。
私なら、そんな野蛮な国の人に笑われたくないのだが。
また別の悪例を挙げる。
異常な程コロナにビビるコロナヒステリー国日本。
— モツァレラ (@Jyanvaraya) 2022年1月3日
気にしなけりゃすむ話。
— 辻本さん (SW-5806-5130-2719) (@tsujimoto_) 2022年1月3日
いやあ、ひどいもんだ。
こんなのもあった。
だが、ゲート内には入れないし、完璧な外国。本国の感染数を見るとさもありなん。
— 海辺の白ヤギ (@kiyomasa27) 2022年1月3日
外出禁止をしてる筈。
米軍が米兵に禁足令を出しているかどうかは知らないが、仮に出していてもそれは守られず、コロナに感染した米兵が街を出歩いていたに違いない。そうでなければ沖縄県に突出して新規陽性者が多かったり、山口県でも岩国市ばかりに新規陽性者が集中したりするはずがない。岩国市の人口は山口県全体の人口の1割に過ぎないのに、昨日（1/4）の山口県の新規陽性者79人のうち62人（78%）までもが岩国市に集中していた。広島の地元紙・中国新聞も「米軍基地発端のコロナ拡大」と断定している。
玉城デニー沖縄県知事は「激しい怒り」を表明したからまだ良い。岩国市長や山口県知事や山口県選出の国会議員らはどんな意見を発信したのだろうか。また、日本国総理大臣・岸田文雄はいったい何をしているのだろうか。
そして何よりも、この国に住む人々はなぜ怒るべき時に怒れない奴隷根性の持ち主ばかりになってしまったのだろうか。
このことにこそ激しい怒りを感じる。
