田中康夫といえば昔から小沢一郎の盟友だし、2005年に小林興起らの右翼(極右)政治家たちとつるんで新党日本を立ち上げたし、2016年には維新の会から参院選東京選挙区に立候補したりした。私はずいぶん昔から田中を激しく敵視してきたし、それは今も変わらない。もっとも痛快だったのは、2016年参院選で山本太郎が応援した三宅洋平に田中が票を食われて共倒れしたことだった。
そんな田中も論外だが、田中に噛みつかれて怒っている細谷雄一氏の言い分も理解できない。
きわめて不愉快な田中康夫氏のコラム。この方はどれだけイギリス政治をご存じなのか。「トラスを厚顔無恥にも「社会民主主義的」とドヤ顔で“怪説”する慶應義塾大学の「国際政治学者」細谷雄一」とのこと。トラス氏の両親が労働党左派の支持者で、母親は核軍縮運動員の「社会民主主義者」でした。(続)
— Yuichi Hosoya 細谷雄一 (@Yuichi_Hosoya) 2022年11月7日
まず思ったのは、親の思想信条と本人のそれは関係ないじゃん、ってこと。たとえば河野洋平は穏健保守だが、河野太郎は(私にとっては忌むべき)右翼にして新自由主義者だ。
細谷氏のツイートへのリンクを続ける。
そしてよく知られているように、トラス氏は大学時代は中道左派政党の自由民主党の学生組織に入っていて、王制廃止論者だった。1980年代に英国では自由党が社会民主党と統合して自由民主党に。トラス氏は、まさに、1980年代、90年代の社会民主主義的なイデオロギーの申し子です。(続)
— Yuichi Hosoya 細谷雄一 (@Yuichi_Hosoya) 2022年11月7日
これも若い頃と今とを同じだと考えるのはおかしい。泉健太の支持者が、泉は北海道出身で昔は社会党を支持していたと書いていたのを見たことがあるが、今の泉は維新にすり寄って安倍晋三の国葬について「静かに見守る」と言ったり、出席したそうな口ぶりだったりと、すっかりネオリベ化かつ右傾化している。
なのでトラス氏は、根っからの保守主義的な政策を主張するスナク氏から、保守党党首選で「社会民主主義者」と批判されていた。80年代の英社会民主党を知っていれば、そのイデオロギーとの類似性を指摘されるのは当然です。(続)
— Yuichi Hosoya 細谷雄一 (@Yuichi_Hosoya) 2022年11月7日
論外のスナクはどうでも良い。スナクに対しては、野田佳彦を思わせる財政再建至上主義者という心証を持っている。
そもそも戦後の保守党首相では、公立学校出身の首相は、メジャー首相とトラス首相の二人が例外的で、自らが中流階級の出自を代表選ではトラス氏は武器にしていました。それは、パブリックスクール出身の、生まれながら保守主義者のスナク首相、ジョンソン首相、キャメロン首相とは違う。(続)
— Yuichi Hosoya 細谷雄一 (@Yuichi_Hosoya) 2022年11月7日
ただし、私が原稿で主張したのはそこではありません。トラス氏は人生の中で何度もイデオロギー的立場を変えてきたので、富裕層に迎合する保守主義的な政策と、生活困窮者に迎合する社民的政策と、多様な顔があり、節操がなく万人受けしようと、融通無碍であったことが私の論旨です。(続)
— Yuichi Hosoya 細谷雄一 (@Yuichi_Hosoya) 2022年11月7日
上記が細谷氏の言いたかったことか。ここまでくるのにずいぶん字数を消費したな。よっぽど頭にきていたらしいことはわかるし、田中康夫はそもそも相手を怒らせる目的で言ったり書いたりする人間なので、そこだけは同情する。
しかし細谷氏の論旨には賛成できない。私見では、何度もイデオロギーを変えるような人間は「融通無碍」なのではなく大衆迎合的で時流に乗ろうとしがちなタイプの人間だ。しかも悪いことに、主義主張が根っからのものではないだけに、本家本元よりもかえって過激になる。エピゴーネンは本家本元よりも過激で悪弊が大きいというのが、昔からの私の変わらぬ意見だ。
河村たかしを連想させるトラスの「減税真理教」はその典型例だったのではないか。そんなトラスを、松尾匡のお墨付きをもらっているらしい某零細政党政治塾塾長(但し組籍というか党籍は持っていないらしい)の長谷川羽衣子が絶賛したのだから頭が痛い。
そのようなイデオロギー的な混在性や、融通無碍な政策という側面を無視して、あたかも私がトラス氏を「社会民主主義者」と論じたかのように議論を歪めて誘導させることを不快に感じますし、抗議します。「ドヤ顔で”怪説”」って、私の顔、見たんですか?(続)
— Yuichi Hosoya 細谷雄一 (@Yuichi_Hosoya) 2022年11月7日
おそらくは田中氏は、中野上智大学教授のツイートをそのまま受け売りにして私を中傷したのでしょうが、私がイギリスの政治外交史が専門です。上記のような80年代の社民的環境で育ったトラス氏の生い立ちをおそらく知らずによく「ドヤ顔」で私を批判する「怪説」をするものと、反論したい気分です。
— Yuichi Hosoya 細谷雄一 (@Yuichi_Hosoya) 2022年11月7日
そんなわけで、悪質なチンピラである田中康夫が発した誹謗中傷に対する怒りにだけはご同情申し上げるが、残念ながら細谷氏の論旨には全く賛成できない。
私は北守氏の一連のツイートに強く共感する。
この理屈はおかしい。トラスによる減税とエネルギー支援政策はもっぱら富裕層と企業に恩恵があり貧困層はせいぜいそのおこぼれをもらうに過ぎないので普通に新自由主義政策である、というのが普通の見方で英国のニュースでもだいたいそうなってる。 https://t.co/ZfzHh866S4
— 北守 (@hokusyu82) 2022年11月7日
減税は新自由主義政策ではないとするのは別にイギリスでも一般的な考えではない。もちろんスナクのような新自由主義者Bが新自由主義者Aを攻撃するときのレトリックとして社民主義的という言葉が使われることはあるし、それは記事内でも触れられている。
— 北守 (@hokusyu82) 2022年11月7日
しかし朝日記事は「社民主義というのはあくまでスナク目線であって自分(細谷氏)はそうは考えてないですよ」という構成にはなっていない。
— 北守 (@hokusyu82) 2022年11月7日
トラスの出自や過去の経歴なるものものは、トラスが本当に社民主義的な政策をやったときにその背景として触れられるべきものであって、トラスの社民主義ではない政策を社民主義だと言い張るために持ち出すのは因果が転倒している。
— 北守 (@hokusyu82) 2022年11月7日
トラスが自分の社民主義的出自を政策に反映させたという根拠はないが、新自由主義の影響を受けたという根拠はある。 https://t.co/Ru06izakHp
— 北守 (@hokusyu82) 2022年11月7日
ところで、細谷氏はともかく、日本では確かにトラスの政策が左派的だと誤解される土壌がある。安倍政権以降、主にリフレ派が、財政拡大や減税をするなら何でもかんでも左派的なのだと雑なメッセージを送り続けてきたせいで、左派でも減税ときくとパブロフの犬みたいに反応する人がたくさんいる。
— 北守 (@hokusyu82) 2022年11月7日
最後のツイートが指摘するところが、今の日本の(特にネットでの)雑な経済政策論議で幅を利かせていて頭が痛いところだ。私には時計の針が逆回転したとしか思えない。そして、それに大きく寄与したのが山本太郎であると言いたい。
その意味で、下記まことん氏のツイートには賛成できない。
「れいわ」登場以前は、リベラル系も含め、社会保障の財源の為にも消費税は不可欠との議論で中心でした。肌感では、消費税減税や廃止論は、メディアや永田町では「出来もしない」で一蹴という感じ。善きにつけ悪しきにつけ、消費税の議論を再び顕在化させたのは、「れいわ」の実績だと思います。
— まことん┃挑戦を積立てる中年 (@makotonch) 2022年11月6日
私は、税制の議論を事実上消費税だけに限定してしまい、「消費税減税」から最初の3文字が抜け落ちて「減税」だけを一人歩きさせてしまった零細新選組の組長・山本太郎に対して、極めて強く批判的な立場に立つ。山本など全く評価できない。
山本の批判で記事を締めくくるのも癪なので、上記北守氏のツイートからもリンクされていたkazukazu88氏のツイートをリンクして記事を締めくくる。
リズ・トラスの経済・財政政策に影響を与えたのは、極端な市場至上主義のシンクタンクInstitute of Economic Affairsだったというのは、英国のニュースを追っていれば分かることなのに。社会民主主義とは対局だし、彼女の人生の変遷なんか全く関係ない。
— kazukazu88 (@kazukazu881) 2022年11月7日
リズ・トラスは新自由主義の極北ともいうべき「減税真理教」の政策を打ち出し、政権発足早々自滅して果てたということだろう。