kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

読んだ本/中野剛志『TPP亡国論』

いまさらだが評判の本を読んだ。


TPP亡国論 (集英社新書)

TPP亡国論 (集英社新書)


私はTPP反対派だが、本書には賛成できる部分とそうでない部分があった。評価としては保留だ。あまりにあちこちで話題になっている本だから、力み返ってレベルの低い書評を書くのはやめておく。著者が「原発推進勢力」に属する経産官僚(現在は出向で京大に奉職)という先入観があったせいかもしれないし、著者が自主防衛を重んじる保守の人であるせいかもしれない。安全保障問題における著者のスタンスは、鳩山由紀夫小沢一郎に心酔している人たちにはウケるかもしれないなと思ったが、私にはちょっと、いやかなり違和感があった。

フェイントだが、本書の終わりの方で心から共感した箇所を紹介する。

 もっと驚くべきは、この(注:谷内正太郎氏が言う)「日本が飛び乗るべきバス」という表現です。一九三〇年代、ヨーロッパで全体主義が台頭する中、日本は、まさにこの「バスに乗り遅れるな」というスローガンのもと、日独伊三国軍事同盟の締結へと踏み切りました。「バス」のたとえは、「歴史から教訓を得よ」と説く人物が用いるべき表現ではありません。(本書233頁より)


私がもう何十年も前から嫌ってやまないのが、この「バスに乗り遅れるな」というフレーズである。2000年に、私にとっては現在話題の読売球団(前)代表・清武英利にとっての渡邉恒雄に相当する人物、いやもちろんそれよりはお互いスケールは何回りも小さかったのだが、その男の口からこのフレーズを聞いて、心の底からこの人物を軽蔑する感情が沸き上がったことを思い出した。最終的に私は社を辞したが、その直前、「立つ鳥跡を濁さず」の諺に真っ向から反して、この男を思いっきり面と向かって罵倒したことを思い出す。男は、「言っていいことと悪いことがあるんだ」と言って激怒していたが、目が三角になっていた。いや、本当に彼の目が三角形に見えたのだ。日本語の表現とはたいしたものだなあと妙な感心をしたことが忘れられない。のちに、この男が私に罵倒されてどえらいショックを受けたと伝え聞いたが、そんなものはほんのいっときの感情に過ぎない。あくまでも勝者はその男であり、私は敗者だった。

そんな思い出話はともかく、今回のTPP問題でテレビでもしょっちゅう聞かれたのが、この「バスに乗り遅れるな」論だった。私の大嫌いな岸井成格も言っていたと思う。これほど愚劣な言説はないと昔から思っているのだが、なぜかこのフレーズを発する人間は後を絶たない。