kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

今野晴貴『生活保護』(ちくま新書)を読む

今週読んだ本。



本書の内容については、下記ブログ記事がよくまとまっていると思われたのでリンクしておく。


本記事では、本書の中から、現在選挙戦が行われている参院選と絡めて注目した部分に触れる。

まず取り上げるのは、本書第4章「違法行政が生保費を増大させる」に引用されている、自民党国会議員の暴言だ。

片山さつきは「生活保護社会保障ではない」、世耕弘成は「生活保護受給者には『フルスペックの人権』を認めるべきではない」とそれぞれ言い放った*1。こんな議員がいる政党の圧勝が間違いないとは寒心に堪えないが、著者が問題視しているのは、「生保を受給するためには自らが真正な貧困者であることの証明が要求される」*2ことである。「実際の行政の審査を通過するためには、車や持ち家の処分、蓄えがあればそれすら処分し、丸裸になる必要がある」*3と著者は書く。

ただでさえこのような状態にあるのに、片山や世耕ら自民党の政治家は、さらなる貧困の可視化を要求するのである。

少し本書の内容から脱線するが、4年前の衆院選では争点の1つとされていた「取り調べの可視化」には冷淡もいいところだった自民党の政治家は、それとは裏腹に「生活保護を受ける人間が貧困であること」の可視化を強く求める。自民党とは恐るべきサディスト集団であるといえよう。

著者は、自民党の政治家たちの主張を言い改めて、その問題点を指摘する。以下本書より引用する。

(前略)つまり、生活保護の対象者は、普通の生活をしていてはいけない。誰から見ても「貧困者」とわかる相貌でなければならないという要求。うつ病にかかっていて働けなくても、収入がなくとも、「普通に見える」限りは生保の対象としてはいけないというのだ。

 だが、目に見える貧困化が進むことで、当人の生活や健康状態、精神状態は荒廃していき、就労や社会参加は遠のく。(中略)

 ある社会学者の言葉を借りれば、バッシングが受給者に要求しているのは、「家族全員が難民キャンプで生活する」ような状態であり、社会生活への復帰を阻む生活水準だ。「真正な貧困者であれ」という要請に応えようとすれば、金銭面だけではなく、生活習慣や社会の関係性までも破壊してしまう。

今野晴貴生活保護 - 知られざる恐怖の現場』(ちくま新書, 2013年)165-166頁)

これが、片山さつき世耕弘成が旗を振って、多くの大衆が共鳴した「生活保護バッシング」の正体なのだ。このバッシングには、生活の党も加担した。

また本書には、大阪市(!)天王寺区生活保護受給者の素行調査が行われていたという呆れた事例を紹介している。大阪市には生活保護の不正受給調査専任チームが存在するが、左記の例では、「適正化チーム」と通称されるらしい不正受給調査専任チームと生活保護受給者を担当するケースワーカーがグルになって、生活保護受給者の素行調査を行った。これが犯罪の要件を構成するであろうことに疑う余地はない。しかし、大阪市はそんな「適正化チーム」(不正受給調査専任チーム)のために、1億円以上もの予算を計上している(2013年度)*4

生活保護法の改正案は先の国会で廃案になったが、本書では、終章「法改正でどうなるのか」で、改正案の問題点を指摘している。もちろん「改正案」の正体が、昨今の「生活保護バッシング」の流れに便乗した改悪案であることはいうまでもない。

この件に関して、生活保護法改正についての各党のスタンスを、昨日(19日)付の東京新聞が伝えている。記事にもあるように、安倍政権の田村憲久厚生労働相は、生活保護法の改正案を秋の臨時国会に再提出する考えを示している。


http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013071902000106.html

有権者発>生活保護抑制案 各党は?


 「雇用情勢が厳しい中、貧困層が今後も増える恐れがある。だが、生活保護の問題を参院選の候補者が真正面から論じているようには見えない」

 (愛知県瀬戸市、無職山口守一さん、72歳)

 生活保護は、憲法二五条が定める「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(生存権)を保障する制度。「最後の安全網」と呼ばれる。受給者は二〇〇八年のリーマン・ショック後に急増。今年四月で二百十五万人余で、一三年度予算の支給額は三兆七千六百億円。

 衆院選で保護費の一割削減を掲げた自民党が政権復帰。政府は八月から、保護費を二年半かけて8・3%減らすと決定済みだ。

 さらに、政府は先の通常国会に(1)申請時に資産や収入に関する書類の提出を義務付け(2)親族の扶養義務を強化−などの抑制策を盛り込んだ生活保護法改正案を提出した。

 専門家らは「自治体が窓口で申請を拒む水際作戦を助長する」と批判。与党は民主党と口頭申請を容認する修正を行い、修正案は与党と民主、維新、みんな、生活などの賛成多数で衆院を通過、参院に送られた。だが、会期末の国会の混乱の影響で審議未了・廃案となった。

 廃案直後、田村憲久厚生労働相が秋の臨時国会に再提出する考えを示したのに対し、専門家や支援者から参院選での争点化を求める意見が出ていた。

 本紙が各党に賛否を尋ねたところ、自民、公明両党と日本維新の会は賛成。共産、社民両党は反対。民主党みんなの党、生活の党、みどりの風は改正内容や審議を見て判断すると回答を寄せた。

 維新は無条件で「賛成する」と明言。自民は「自立の促進と不正受給の根絶が目的」と正当性を強調。公明は通常国会での修正を踏まえて再提出するよう政府に求める考えを示した。

 一方、共産は「修正しても要保護者に圧力をかけ、切り捨てを推進する本質は変わらない」と強調。社民は「生存権を侵しかねない」と公約に掲げた。

 態度を留保した四党のうち、生活は「申請手続きの厳格化、扶養義務の強化は修正すべきだ」と明言。みんなは「申請者を萎縮させてはならない」、みどりは「必要な支援が受けにくくなる改定は好ましくない」と、慎重に検討する考えを示した。 (上坂修子)

東京新聞 2013年7月19日 朝刊)

私が今回の参院選で「絶対に投票してはならない」と考えている政党がどこかは明らかだろう。絶対に投票してはいけない政党は2つある。

たとえば、ある極右にして新自由主義の政党の候補と、凋落著しい保守・中道系政党の右派候補が激しく2議席目を争う定数2の選挙区があり、私がその選挙区の有権者だったとするなら、私は自分の主張を曲げてでも、過激な「生活保護法改正」賛成派の政党の候補者を落とすための投票行動をとるだろう。


最後に、本書には「貧困ビジネス」や、飲食業などによく見られる「ブラック企業」の問題も取り上げられている。

生活保護バッシング」批判に対して、「そうは言っても不正受給の問題はやっぱり深刻なんだろ」と思ってしまう人には、是非一読をお勧めしたい一冊である。

*1:本書165頁

*2:本書165頁

*3:本書165頁

*4:本書33〜51頁, 184頁