kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

疑念が全然晴れなかった小保方晴子氏の記者会見

STAP細胞」の件、小保方晴子氏の記者会見を見たが、正直言って疑念は全然晴れなかった。

それで昨夜、「STAP細胞」の国際特許出願に関して、もう少しネット検索してみた。すると、下記記事が見つかった。もちろん、「STAP細胞」がもてはやされていた頃の記事である。

【生かせ!知財ビジネス】STAP細胞陣営の特許戦略に注目 (1/2ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)

【生かせ!知財ビジネス】STAP細胞陣営の特許戦略に注目


 世界中を驚かせた「STAP細胞」。知財専門家の間では特許出願戦略に注目が集まり始めている。

 米国のブリガムアンドウィメンズ病院(BWH)、理化学研究所東京女子医科大学は「GENERATING PLURIPOTENT CELLS DE NOVO」という特許を米国でPCT(特許協力条約)国際出願しており、今後30カ月以内に出願人が指定する国で国内手続きに移行し、各国の特許庁で審査される。

 日本の特許庁は「ぜひ日本で出願してほしい」とアピールする。約1カ月以内に結果を出す「スーパー早期審査制度」や海外で早期に権利取得ができる「特許審査ハイウェイ制度」があり、先行技術の有無を世界中の文献から調査する能力も高い。ウェブ上の面接審査で質の高い審査が海外でも受けられる。バイオ関連審査官70人余のほか、新しい任期付職員(審査官補)が7月1日に採用される予定で陣容の充実を図っている。

 ところで本発明は特許になるのか。発明を否定できる先行技術文献「X文献」が多数存在するのが気になる。「請求権利範囲が非常に広い。全74のクレーム(請求項)の第1クレーム“細胞へ刺激を与えて多能性細胞を生成する方法”が独立請求項で、他が従属請求項。製法特許が成立してもライセンスや権利の侵害の立証は難しいのでは」(政府系機関の知財担当)と懸念する。米知財法律事務所の弁護士は「独立請求項の権利範囲が広すぎるため各国特許庁の審査へ移行した際に拒絶される可能性がある。独立請求項に限定条件を入れることになるかもしれない。ライセンスなどの権利行使を考慮すると製法だけではなく、生成物(STAP細胞)に対する請求項があるほうが望ましい」とアドバイスし、強力なロビイストの米国医薬・医療機器業界がどう動くかも権利成立に影響を与える可能性があると指摘する。

 日本陣営だけの出願でなくよかったとする声もある。海外の法律事務に詳しい知財コンサルタントは「BWHの背後にはハーバード大学があり、代理人はボストンに本拠を置く大手法律事務所ニクソン・ピーボディだけに強力な戦略が立てられているだろう。今回理研は特許戦略で十分な実績を持つ海外専門家を確保したと思う。その戦略や知見を理解し意思決定や行動に生かすべきだ」と話している。(知財情報&戦略システム 中岡浩)

SankeiBiz 2014.2.15 05:00)

この記事に、「発明を否定できる先行技術文献「X文献」が多数存在するのが気になる」とあるので、なんだ、そんなありふれた技術思想なのかと思った。しかし、これは記事の誤りであった。実際の国際特許出願は、下記のサイトに "WO-A1-2013163296" と入力してやれば、現物を確認できる。
http://www.ipdl.inpit.go.jp/Gaikoku/gsogodb.ipdl?N0000=104

最後の131頁に、「サーチレポート」が添えられている。これを確認すると、「X文献」は1つしかない。それは、昨日書いた記事 「STAP細胞」の特許出願、小保方晴子は筆頭発明者ではなかった - kojitakenの日記 中に引用した、小保方晴子博士の「STAP細胞」特許出願は基本特許となるか? | 知的財産 法とビジネス(2014年2月1日)に紹介されている 公開公報WO2011/007900 A1「生体組織から単離できる多能性幹細胞」 である。サーチレポートは、バカンティ・小保方氏らの出願のうち、請求項1〜6, 8, 12〜26, 29, 31, 32, 35〜45,48,51は、東北大の出澤真理教授による上記の出願と同一であり、請求項9, 10, 27, 28は,は、出澤教授の出願と、Rudolf Jaenisch氏らが出願した2011年のアメリカ特許出願公開2011/0070647との組み合わせによって容易に実現できるものだとしている。しかし、バカンティ・小保方氏らの出願のうち請求項7, 11, 30, 33, 34, 46, 47, 49, 50, 52〜74には、該当する先行特許文献が見つからないと書いてあるのだ。

もっとも、出沢教授の出願のサーチレポートを参照すると、こちらには「X文献が多数」挙げられている。従って、バカンティ・小保方氏らの基本的な思想は、やはり広く公知だったと考えるべきかもしれない。なお、このサーチレポートというのは、それほど権威のあるものではなく、単なる目安に過ぎない。各国で審査請求されれば、当該国の特許庁がさらに先行文献を精査して、特許査定なり拒絶査定なりを下す。

ところで、特許というのは、先行技術文献(主に特許文献)が存在しなければ、永久機関のようによほど明々白々に科学的に否定されているアイデアでない限り、特許査定を受けてしまうものである。だから、一昨日バカにして書いた STAP細胞よりすごい!? 三菱重工が「世紀の大発見」か(笑) - kojitakenの日記 に引用した日経の記事にあるように、「重水素を使い、少ないエネルギーで元素の種類を変える元素変換の基盤技術を確立した」とうたう三菱重工の出願が、「日本での特許に続き2013年、欧州でも特許を取得した」などということが起こり得る。つまり、科学的に真実であるかどうかと、特許を取得できるかどうかは、全くの別物なのである。ただ、科学的に正しくなければ工業製品にはなり得ないから、特許の審査、登録、維持などに要する費用を損するだけの話だ。

さて、小保方氏についてだが、最初「STAP細胞」が大々的に発表された時、私が引っかかったのは、小保方氏が「イギリスの "Nature" 誌の査読者に、『数世紀に及ぶ生物細胞学の歴史を愚弄するものである』と言われた」と言ったことだった。おそらく理研が用意した「決めゼリフ」だったのだろうが、そこに私は「真実ならざるもの」を直感した。これは小保方氏の本心から迸り出た言葉とはほど遠いと思った。そして小保方氏に違和感を覚えたのだ。その第一印象があったから、その後小保方氏が一転して「バッシング」を受けるに至った時、それにも反感を持ち、その旨の記事を書いたにもかかわらず、小保方氏の主張を素直に受け入れる気にも到底ならないのである。

バカンティ・小保方氏らの発想自体は、「数世紀に及ぶ生物細胞学の歴史を愚弄するものである」どころか、多くの研究者が仮説を立てて、その実現に日々心血を注いでいるものではないかと思われる。出願特許に「X文献」があり、その「X文献」に対しても多数の「X文献」があるという事実は、その想像の確からしさを裏付けるものではないかと勝手に思う今日この頃である。