しつこく「STAP細胞」にからむ研究不正について書く。
NHKスペシャル*1で、ひそかに思っていたある推測がどんぴしゃり当たった。これは今まで日記に書いた記憶がないから、何だ後付けの理屈じゃないか、信用できないぞと思われるかも知れないが、それは仕方ない。
私が想像していたのは、笹井芳樹は抜群の資金調達能力を持っているのではないかということだった。
昔、ある技術者と話した時、彼は優秀なリーダーの条件として、この資金調達能力を挙げた。研究開発には金がかかる。高温超伝導や再生医療の分野は特にそうだろう。良い設備は成果を上げる可能性を高める。
少し前に当ダイアリーに書いたと思うが、ヤン・ヘンドリック・シェーンの研究不正がすぐに露呈しなかった理由の一つに、彼の「研究成果」の当否を検証できるだけの設備を持った研究機関がほとんどなかったことがあるとの話を聞き知った*2。この時、もしかして笹井芳樹とは資金調達能力が際立って高い人間ではないかと思いついた。そして、その想像が正しかったことをNHKスペシャルは教えてくれたのである。
理研の政治力の源泉は野依良治ではないかと考えていた方もおられるようだが、私は野依の線はないと思った。野依は「政治力でノーベル賞を獲った」と言われる人間ではあるが、それは野依の現役時代の話であり、名誉職におさまっている現在、しゃかりきになって資金を調達する動機などあるまいと考えたからである。
資金調達能力の高い研究者は、研究それ自体の能力も高いことが多い。実績に裏打ちされた自信がプレゼンテーションに説得力を与えるなどするからだ。ただ、一概にそうとばかりも言えず、中には政治力ばかり突出して、研究者あるいは技術者としての能力は大したことのない人間もいる*3。とはいえ笹井芳樹の場合は文句なく前者であろう。
このことは、政治家にたとえればわかりやすいかもしれない。議員立法の数の多さで知られる田中角栄のような優秀な政治家もいれば、民主党への政権交代が実現した途端、議員立法の禁止を打ち出した小沢一郎みたいな人間もいる。小沢自身は、その長い議員生活でいったい何件の議員立法を提案し、成立させたのだろうか。田中角栄と小沢一郎の2人の共通点は、資金調達能力の高さだけだろうと私は考えている。
ただ、往々にして専門分野の能力も資金調達能力も高い人間は、癖が強く、部下の好き嫌いが激しい。そういう人間に偏重された部下は、アンタッチャブル的な存在になって、周囲の誰も口出しできなくなる場合がある。こういう例を私は複数見てきた。別に女性に限らないというより、女性の例を私は知らない。だが、小保方晴子とは笹井芳樹にとってそのような存在だったのではないかと想像するのである*4。そして、こうした存在は、当然ながら人間関係のもつれをもたらす。アンタッチャブル的存在を激しく嫌う人間が少なからず現れるのである。
私は「STAP細胞」研究不正疑惑が勃発した当初、「小保方晴子叩きに違和感を覚える」と書いた。それは、当時言われていた「小保方晴子の単独犯」の図式、ひたすら「博士論文に含まれるコピペ」ばかりが喧伝される状況では、研究不正の全体像を想像することができなかったからだ。何より、小保方晴子とは理研が組織ぐるみで売り出した「リケジョの星」だった。その事実と、「小保方氏のインチキに理研の偉い研究者たちはみんな騙されていました」という、当初一部でなされていた説明とはギャップが大きすぎた。その説明はあまりにも嘘くさくて信じられなかった。私は「小保方晴子の単独犯」はあり得ないと思ったのである。
しばらくして、笹井芳樹の存在が大きくクローズアップされるにつれて、やっと納得のいく仮説を立てることができるようになった。それが、笹井芳樹と小保方晴子の「共同正犯」の仮説である。仮に、今回の研究不正の発端が小保方晴子単独によるものであったとしても(というか、おそらくそうだろうと私も思うが)、その背景には笹井芳樹の期待ないし、笹井芳樹を助けたいという小保方晴子の思いがあっただろうし、笹井芳樹が少なくともある時点で小保方晴子の不正に気づいたことは確実だろうと思うのだ。その時点で笹井芳樹は共同正犯になった。しかるべき対応をしなかったことによって、笹井芳樹は取り返しのつかない過ちを犯してしまったのではないかと私は考えている。小保方晴子の研究不正の動機が「笹井先生のため」なら、笹井芳樹のそれは「研究資金獲得のため」だった。
笹井芳樹にとって「STAP細胞研究不正事件」とは、田中角栄にとってのロッキード事件に相当する、人生最大の挫折だったかもしれない。NHKスペシャルが放送された7月27日は、38年前に田中角栄が逮捕された日であった。