http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20150104/1420381452#c1420492564
id:spirit7878 2015/01/06 06:16
中村修二氏の『考える力やり抜く力私の方法』は父に勧められて僕も読んだことがありました。
内容はなるほどとうなずけるものでしたが、一つ気になったのは、彼がいわゆりアメリカンドリームの信奉者であること。
これは今も変わってないのでしょうか。
私が読んだ『怒りのブレイクスルー』は古い本で、単行本初出が2001年、文庫化が2004年です。当然中村氏は「アメリカン・ドリーム万歳」のおめでたい論調全開ですが、ノーベル賞受賞後にマスコミに紹介された彼の言葉から判断する限り、今でも「いわゆるアメリカンドリームの信奉者」であり続けていると思われます。
思い出すのは、2007年末にNHKスペシャルで放送された「ワーキング・プアIII」で、研究開発部門がまるごとインドかどっかの海外に移転して職を失ってしまった技術者が発した、「アメリカン・ドリームはどこに行ってしまったんだ」という嘆きの声でした。彼は確か日本円にして1千万円強の年収があったのに、職を失ってマクドナルドあたりでバイトして食いつないでいたかと記憶します(あやふやですが)。その後彼はどうなったんだろうなと思いました。
トマ・ピケティの『21世紀の資本』が、本国のフランスよりもアメリカで大きな反響を呼んだ理由は、本を読んでみればすぐにわかります。第1次世界大戦前までのヨーロッパは格差の極めて大きな社会だったのに対してアメリカは格差の小さい社会で、「アメリカン・ドリーム」も当時ならあったのでしょう。しかし、1980年頃からの「保守革命」(英サッチャリズムや米レーガノミクス)によって、現在のアメリカは1914年頃のヨーロッパに比肩する格差の国、特に上位1%に富が集中していることを、ピケティが膨大なデータ収集によって実証的に示したから、アメリカで大きな反響を呼んだのです。ちなみに、ピケティ本によると、日本社会の格差はアメリカほどではなく、ヨーロッパと同程度とされています。
中村修二氏は日本で成功してからアメリカに行ったので、成功者が形成するコミュニティの一部を見て「アメリカン・ドリーム万歳」を叫んだものと思われますが、その社会観は俗物のそれでしかないと思いました。
ただ、その中村修二の俗物性が、彼のなした青色発光ダイオードの製造技術の開発という偉業を損なうものではないとも思います。他の分野でも、大芸術家が俗物だったなどというのはよくあることで、昨年読んだ本を通じて強く印象に残ったのは、大歌人・斎藤茂吉は俗物以外の何者でもなく、彼は戦意昂揚にもずいぶん寄与したけれども、それでも茂吉の残した秀歌の価値は変わらないということでした。