kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「立憲主義」は80年代後半or90年代以降の「新説」か

人の噂も七十五日というくらいだから、3年前の2012年に自民党の極右政治家・礒崎陽輔が下記のTwitterを発信して批判の十字砲火を浴びたことを覚えている人は意外に少ないかもしれない。

残念ながら、門外漢(工学部卒)の私はネット情報に頼るしか能がない。

以下、(追加あり)立憲主義を知らない自民党「憲法起草」委、事務局長、「礒崎陽輔」議員に関する法律関係者のコメント - Togetter から引用する。まず礒崎の妄言から。

https://twitter.com/isozaki_yousuke/status/206985016130023424

礒崎陽輔
@isozaki_yousuke

時々、憲法改正草案に対して、「立憲主義」を理解していないという意味不明の批判を頂きます。この言葉は、Wikipediaにも載っていますが、学生時代の憲法講義では聴いたことがありません。昔からある学説なのでしょうか。

22:47 - 2012年5月27日


https://twitter.com/isozaki_yousuke/status/207001181443203072

礒崎陽輔
@isozaki_yousuke

立憲主義」、Wickpediaでは、樋口陽一先生の著書が引用されています。私は、芦部信喜先生に憲法を習いましたが、そんな言葉は聞いたことがありません。いつからの学説でしょうか?

23:51 - 2012年5月27日


https://twitter.com/isozaki_yousuke/status/207086976984289280

礒崎陽輔
@isozaki_yousuke

我々が憲法の教科書に使ったのは、有斐閣法律学全集で、清宮四郎先生と宮澤俊義先生のもの。ありませんね。佐藤功先生の「日本国憲法概説」を見ていますが、「立憲主義」は、ないようです。法制局に聞くと、京都大学佐藤幸治先生が広めたのではないかと。それならば、80年代後半以降でしょう。

5:32 - 2012年5月28日


これらの妄言に対して専門家から数々の批判が寄せられた。現在では非公開または削除されたTwitterが多いが、幸いなことに上記togetterで確認できる。下記3件は元のTwitterにはアクセスできないが、togetter経由で引用する。

高橋雄一
@kamatatylaw
清宮四郎「憲法」(有斐閣昭和32年の初版の2頁に立憲主義」の解説があるけど。
2012-05-28 22:10:57

高橋雄一
@kamatatylaw
立憲主義(Constitutionalism)とは,国民参政,基本権の保障及び権力の分立の三原則を実現する国家体制を要請する,近代の政治理想をいう。」清宮四郎「有斐閣法律学全集・憲法」(有斐閣)2頁15〜16行(初版昭和32年)
2012-05-28 22:14:59

浪人した親愛なる同志Kevtaro
@Kevtaro
@isozaki_yousuke 宮沢先生1937年田中二郎教授とともに立憲主義三民主義・五権憲法の原理』という著作を出していますし、手元にある宮沢先生の論文集憲法の原理』も最初の論文が立憲主義の原理」であり、1ページ目から使われています。
2012-05-28 22:19:41


下記Twitterは元のTwitterをたどれる。
https://twitter.com/KaffeeBitte/status/207117350741344259

T.Hibi
@KaffeeBitte

手元で確認できるなかでは、1964年刊清宮四郎・佐藤功編『憲法講座4』のなかで、芦部先生「……立憲主義(法の支配)の原則は、古典的な自然法の理論をはなれて独立に意味をもつ憲法の本質というべきものであろう」と書いてらっしゃいますよ。

7:33 - 2012年5月28日


実は「立憲主義」という言葉は、私もブログを始めて政治経済について書くようになった2006年以前には知らなかったのだが、「法の支配」(と「法治主義」との違い)なら高校時代に習ったし、文系学科の大学入試にも出題される事実も知っている。そのことは、今年2月7日付の日記に取り上げた。

ジャーナリストよ、安倍政権が勝手に定めた「特定秘密」に挑め/「法の支配」と「法治主義」の違い - kojitakenの日記(2015年2月7日)

下記は立憲主義に関するブリタニカ国際大百科事典の記載。

立憲主義(りっけんしゅぎ)とは - コトバンク より

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

立憲主義
りっけんしゅぎ
constitutionalism

法の支配 rule of the law に類似した意味を持ち,およそ権力保持者の恣意によってではなく,法に従って権力が行使されるべきであるという政治原則をいう。狭義においては,特に政治権力を複数の権力保持者に分有せしめ,その相互的抑制作用を通じて権力の濫用を防止し,もって権力名宛人の利益を守り,政治体系の保全をはかろうとする政治原則である。


上記を参照すると、「法の支配」は「立憲主義」と同じとはいえないまでも、その上位概念のようなものであるとは言えるのではないかと思う。そして、「法の支配」なら昔の高校生にも今の高校生にもなじみの概念ではないかと愚考する次第。

最近、またぞろ「リベラル・左派」側から、「立憲主義」は90年代に樋口陽一が布教した説だと言説がなされ、それを鵜呑みにする人間もいるようだが、これなども書き手の意図は別として、少なくとも結果的には「嘘も百回言えば真実になる」実例の一つだと言えるのではないか。何よりも、そのような言説は礒崎陽輔安倍晋三への援護射撃にしかならないのではないかと危惧する今日この頃である。