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古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

ドナルド・トランプは果たして「経済左派」か?

納得できる部分もあるにはあるが、疑問も多々ある記事。これからご紹介するのはそんな記事だ。

米大統領選で躍進する「極右」トランプと「極左」サンダースが示す「挑戦者ポジション」の可能性 | ハーバービジネスオンライン(2016年1月29日)より

米大統領選で躍進する「極右」トランプと「極左」サンダースが示す「挑戦者ポジション」の可能性
2016年01月29日 国際,政治・経済

 1月27日に配信した「社会主義者」を自称するサンダース候補の猛追で前代未聞の事態となった米大統領選」にてお伝えしたように、「私は社会主義者だ!」が売り文句の民主党・サンダース候補の勢いが止まらない。

 ワシントンポスト紙が27日午前(現地時間)に発表した最新世論調査でも、アイオワ州党員集会出席予定者における各候補者の支持率は、バーニー・サンダース=49% ヒラリー・クリントン=45%と、サンダース陣営がリードを保っている。(Bump, Philip “New Iowa poll shows Bernie Sanders leading ― with some red flags” The Washington Post 2016年1月27日)

 この優勢を保ちアイオワでの勝利を確実にするために、サンダース陣営は若年層の掘り起こしに注力している。もともと、全米規模の支持率では依然クリントン陣営が優位。しかし、24歳以下の民主党支持有権者ではサンダース候補の支持率が68%と、同年齢層の支持率を26%しか獲得できていないクリントン候補を大きく突き放している。(Dann, Carrie “NBC Online Poll: Trump, Clinton Retain Double-Digit National Leads” NBC News 2016年1月12日)

 サンダース陣営が若年層の支持を集める理由は、公立大学の学費無料化」「奨学金ローン対策」「所得格差是正などの福祉重視路線。さらにはこうした「若年層狙い撃ち」の施策だけではなく、地球温暖化対策、シリア難民問題、そして司法改革など、サンダースが愚直なまでに満腔で主張する「リベラルだ!レフトだ!社会主義だ!」路線が素直に若年層を惹きつけている。(Robertson, Erin “Watch Out Hillary: Bernie Sanders Is Winning the Youth Vote” Teen VOGE 2016年1月12日)

 さらには、元来は無所属の上院議員だというサンダースの経歴も若年層を惹きつける要素の一つだろう。大きな政党の支持を受けず、ハンディキャップと成りかねない「社会主義者」という自称を掲げながら上院議員に上り詰めた「ワシントンっぽくない感じ」「挑戦者としての姿勢」が若い有権者に支持されているのだ。

あまり報じられないトランプの「リベラル」な側面

 一方の共和党では,もはや日本でもおなじみとなったトランプ候補の支持率が群を抜いている。全米規模の世論調査では共和党支持者でのトランプ支持率は41%と、2位のテッド・クルーズ候補を大きく突き放している。(Agiesta, Jenifer “CNN/ORC Poll: Donald Trump dominates GOP field at 41%” CNN 2016年1月26日)

 ただし注目すべきは、「旧来の共和党支持者はトランプをそんなに支持していない」という点だろう。アイオワ州の党員集会は共和党でも開催される。この党員集会に「これまで出席したことはないが今回は出席するつもり」という有権者に限ればトランプ陣営は優位に立つ。しかし、「以前から党員集会に出席している」という有権者=旧来の共和党支持者では、トランプではなくテッド・クルーズ陣営が支持率トップに立っている。(Bump, Philp “The only number that matters for Donald Trump in this new Iowa poll” The Washington Post 2016年1月26日)

 実際、トランプは「メキシコ国境に壁を作る!」「イスラム教徒の入国を禁止する!」など排外主義的な言動で耳目を集める一方、経済政策では累進課税の強化!」「強い政府・大きな政府で何が悪い!」「富裕層への懲罰的課税が必要だ!」「所得格差是正待ったなし!」「社会福祉の拡充を!」と、あたかも民主党候補者かのような主張を繰り返している。いわばトランプ陣営は「共和党極左」。これでは旧来の共和党支持者から拒否反応を示されるのも当然だろう。

極左」サンダースと「極右」トランプの意外な共通項

 さらには、サンダース陣営と同じように、トランプ陣営も「これまで政界に属していなかった」「共和党エスタブリッシュメントとの喧嘩も辞さない」という姿勢が支持を集める要因の一つと成っている。候補者マッチングサイトとして定評のある”CROWDPAC”でもトランプ陣営支持者のコメントには、He truly is a “Washington outsider”「彼は本当のワシントン外部者だ」と言ったコメントや、”He’s not a career politician”「彼は職業政治家じゃない」と言ったコメントが目立つ。(参照:「CROWDPAC」)

 となると、「私は社会主義者だ!」を自称する「極左・サンダース」と「不法移民出て行け!」ばかりが悪目立ちする「極右・トランプ」の立ち位置は極めて似ているということになる。

 すなわち、

  • 累進課税や富裕層への課税拡大を通して所得格差を是正する
  • 社会保障の拡充のため反緊縮路線に舵を取り積極的に財政出動することを辞さない
  • ワシントンの既成勢力に媚びない

 という点で、両者は極めて似ているのだ。

 そして、両者が起こした「民主・共和どちらでも経済政策的に左に寄ることは有権者の支持を得られる」という旋風は他の候補者にも影響を及ぼしつつある。民主党ではクリントン陣営も「就学ローン問題」を話題にしつつあり、共和党の他の候補者たちも(クリス・クリスティーなど)「社会保障の拡充」「格差是正」を前面に押し出すようになった。大統領レースはトランプ・サンダースの予想外の躍進によって全体的に「左傾化」したとも言える。(後略)

<文・図版作成/菅野完(Twitter ID:@noiehoie photo/(Sanders)AFGE on flickr(CC BY 2.0)、(Trump)Gage Skidmore on flickr(CC BY-SA 2.0)>

ほほう、と思って「トランプ 税制改革案」を検索語にしてネット検索をかけると、しかしながら出てくるのは下記のような記事ばかりだ。トランプは昨年9月に税制改革案を出したようなのだが、必ずしも「経済左派」の政策とは思えないのである。

http://jp.reuters.com/article/usa-election-trump-idJPKCN0RS2SJ20150928

World | 2015年 09月 29日 08:41 JST
トランプ氏が法人税率下げなど税制改革案発表、専門家は疑問の声

[ニューヨーク 28日 ロイター] - 2016年米大統領選の共和党候補指名争いでリードする不動産王のドナルド・トランプ氏は28日の会見で、包括的な税制改革案を発表した。法人税率の引き下げや、税制簡素化を通じた国民の負担軽減などを盛り込んだ。

トランプ氏は大統領に当選した場合、すべての企業に適用する最高税率を現在の35%から15%に下げると表明。また「われわれが用意している税制は単純かつやさしく、公平になる」と強調し、中間所得層やその他の大部分の国民にとって「税制面での大きな軽減」をもたらすと約束した。

トランプ氏自身は巨額の財を成した起業家でありながら、他の共和党の候補に比べるとこれまでは企業への反感をにじませる言動を続けてきた。しかし今回は一転して、大幅な法人税減税を打ち出した。

一方、ポピュリズム大衆迎合主義)的な政策公約も掲げ、例えば年収2万5000ドル未満の独身者と5万ドル未満の夫婦世帯の所得税免除などを約束している。ただ、これらの所得階層の大部分の有権者は既に連邦所得税を支払っていない。

このほかトランプ氏は、所得税率区分を減らすことによる税還付制度の簡素化や、連邦遺産税の撤廃、投資運用会社が成功報酬として受け取る「キャリードインタレスト」向け税制優遇措置の撤廃、米企業が海外に滞留させている利益への一時課税なども提案した。

保守系シンクタンクアメリカン・アクション・フォーラム総裁で、ジョージ・W・ブッシュ前大統領の経済アドバイザーを務めたダグラス・ホルツイーキン氏は、トランプ氏の税制改革案が全体として何を目指しているのかが漠然としているとし、「矛盾だらけだ」と厳しい見方を示した。

税制の専門家からは、連邦債務や財政赤字の増加にはつながらないというトランプ氏の主張に疑問を呈する声が聞かれた。

債務問題解決を訴えるグループを率いるマヤ・マクギニーズ氏は「トランプ氏の税制改革案の内容が明らかにされたが、提案された減税分を十分穴埋めできるように、具体的にどうやって税の抜け穴や税制優遇措置をなくしていくのかが、非常に見えづらい」と指摘した。

(ロイターより)


トランプの税制改革案における所得税率については、アメリカ大統領候補トランプの税制改革(1) | 代表者ブログ | 【税理士法人奥村会計事務所】相続対策、海外税務、開業相談、税金、確定申告|大阪・東京・LosAngeles CA USA(2015年10月5日)によると、

税制であるが、彼(トランプ=引用者註)のプランによると、独身で年収2万5000ドル、夫婦合算では5万ドルまで所得税は免除され、さらに所得税最高税率は25%に抑える(現行39.6%)。中間所得層にも現行税率よりかなり低税率を適用するとし、全体的に低所得者から高所得者まで減税の恩恵にあずかる。

とのこと。

これがどうして「累進課税の強化!」になるのだろうか。もしかしたら最近トランプが自らの経済政策を大きく「経済左派」寄りに転じたのかと思ってネット検索をかけてみたが、そのような形跡は残念ながら見つからなかった。

なお、菅野完氏の記事の後半では、日本の政党は自民党民主党も維新の党もおおさか維新の会もこぞって緊縮財政志向であって「反緊縮」を(「反緊縮」という用語自体を使ってはいないとのことだが)打ち出しているのは共産党だけだと書いている。それはまあその通りだろうが、縦軸を「既成政党への信頼度」、横軸を「緊縮路線への態度」とした変てこなポジショニングのグラフを描いているのがわけがわからない。グラフについては元記事を参照されたいが、菅野氏は下記のように書いている、

 日本で唯一、反緊縮路線を明確に打ち出していると言っていい(反緊縮という言葉を使っている形跡はない)日本共産党は、左側に属するが、やはり強固な党組織と「老舗」ブランドが売りの一つであるわけで、第二象限ということになろう。

 自民党も当組織と「老舗」ブランドに支えられているものの、路線は、芸のない緊縮路線だから右上の第一象限。

 情けないのは、その他の野党だ。民主党も維新系会派もことごとく、緊縮路線。さらにこうしてみると、「おおさか維新」などが主張する「既得権益破壊路線」と「緊縮路線」の合成物がとても奇妙なものだということが際立つだろう。こんな奇妙でそして少し冷静に考えれば世の中からカネの流れを奪い社会の活力を奪うことが明白な立ち位置を占める政治勢力など、アメリカにもその他の先進国にも存在しない。トランプやサンダースが属する第三象限が「挑戦者」象限ならば、維新系の各派が属する第四象限は「サディスト」象限ともいうべきだろうか。

 また、日本の政治空間では、この「挑戦者」象限に位置する政党がないことがよくわかる。この象限には、競合者が居ない。そして、サンダースやトランプがアメリカで人気を博している事実が示すように、さらに言えば、同じような立ち位置のスペインのポデモスや、カナダのトルドー政権のように、この象限こそ、先進国の政治空間における「トレンド」と言ってもいい。

言いたいことは少しはわかる。自民党民主党も維新の党もおおさか維新の会もこぞって緊縮志向の政党だという指摘には私も同意するし、私は、党首脳の独断で突然政策が大きく変わってしまう「民主集中制」の政党だけしか「反緊縮」を打ち出していない現状には大いに不満だ。また、「『既得権益破壊路線』と『緊縮路線』」の両立を唱えるおおさか維新の会が(政治思想極右にして)経済極右のどうしようもなくサディスティックなトンデモ政党であるとの認識には「まさにその通り!」と拍手したい。ただ、国政政党としては新しいかもしれないが、地域政党大阪維新の会」から数えると、橋下徹一派ももはやれっきとした「既成の政治勢力」といえるのではなかろうか。橋下が大阪府知事に就任してからもう8年にもなるのである。そもそも既成政党か新しい政治勢力か、などというのは本来どっちでも良い話で、党内で自由な発言が許される「反緊縮」の大きな政治勢力が不在であることが、日本の経済政策をめぐる政治状況の最大の問題だと私は考える。

それに、後半の議論の前提となる「トランプは経済左派」という指摘が正しいかどうかそもそも疑問なので、結論として、納得できる部分よりも疑問の方が大きい記事と評さざるを得ない。