kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

今年最初に読んだ松本清張本『聖獣配列』(文春文庫)

松本清張の小説は亡父の愛読書だった。山ほど清張の文庫本を持っていたが、私は読んだことがなかった。それが、2013年11月に『Dの複合』(新潮文庫)を読んで直ちにはまった。昨年は特に21タイトルも読んでしまった。今年最初に読んだのが『聖獣配列』(文春文庫)で、これで合計39タイトル目の清張本になる*1


聖獣配列〈上〉―長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)

聖獣配列〈上〉―長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)


聖獣配列〈下〉―長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)

聖獣配列〈下〉―長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)


以後ネタバレ(露骨には書かないが)が含まれているので、これからこの小説を読みたいと思われる方は続きを読まないで下さい。

この『聖獣配列』は清張晩年の1983〜85年(清張74〜76歳)に『週刊新潮』に連載された作品で、ロッキード事件にヒントを得て書かれたという。日本の総理大臣とアメリカ大統領が登場し、日本の総理大臣は田中角栄(任期1972〜74年)がモデルだが、なぜかアメリカ大統領はリチャード・ニクソンではなくジミー・カーター(任期1977〜81年)がモデルにされている。いうまでもなく角栄とカーターの任期は重ならないから、小説と現実に起きた事件とのかかわりはほとんどない。小説に出てくる、巻末で後継総理大臣になる政敵は角栄の後任である三木武夫(任期1974〜76年)ではなく、角栄最大のライバルだった福田赳夫(任期1976〜78年)を思わせるキャラクタ設定になっている。また、ヒロイン中上可南子の造形にあたってデヴィ夫人根本七保子)が参照されたとの説もあるようだ。

50年代末から60年代にかけての清張作品のような、読み始めたら読者を離さないパワーはいくぶん薄れているが、やはり面白い。結末は、なぜか昨年22年ぶりに読み返した筒井康隆の『旅のラゴス』を連想させるところもあったが(もちろん筒井作品の方が後に書かれている)、最後の最後に清張らしい残酷な仕掛けがあった(但し、清張作品ばかりずっと読んできたので、ヒロイン可南子が○○○○を×××結末は上巻の文章から予想できたし、××た○○○○を△△△△「最後の最後の残酷な仕掛け」も予想できた。この仕掛けがあるばかりに、ラゴスと可南子□□□は全然違ったものになってしまったのだった。

可南子の設定は34〜36歳とのことだが、この年齢の頃の樋口可南子がこの小説の可南子役を演じたら「はまり役」だったんじゃないかとも思った。私が樋口可南子という女優を最初に認識したのは、1979年に放送されたテレビ朝日の『土曜ワイド劇場』で演じた悪女役によってだった。清張作品はその数年後に書かれているから、(悪女役を演じる)樋口可南子を意識したヒロインの命名だったのかもしれないとも勝手に想像した。

そういえば、『土曜ワイド劇場』はこの春で終わる可能性があるらしい。私はまだ続いていたことさえ知らなかったけれど。

*1:1冊も買っておらず、すべて図書館で借りて読んだが、新しい本でもすぐに貸し出されて手垢で汚れてくることから、いつまで経っても衰えない清張人気の高さにいつも感心している。