ヤクルトの開幕戦の記事を書くためにネットで調べた過程で、現在春の選抜高校野球(私はそれには全然興味がない)が行われている阪神甲子園球場のマウンドの土が今年から「メジャー仕様」に変わったらしいことを知った。なかなか面白い記事だったので取り上げる。
私は、今年中日から阪神に移籍したガルシア投手について、この人は外国人投手にありがちの柔らかいマウンドを嫌う、甲子園には合わない投手なのではないかと思っていたのだが、なんとまるでそのガルシアに合わせるかのように、甲子園のマウンドを硬くしたらしい。まずガルシアに関する日刊スポーツの記事から引用する。
https://www.nikkansports.com/baseball/news/201902060000798.html
(前略)警戒心を強めたのはライバルの007だ。ヤクルト山口重幸スコアラー(52)は「実績があって、ドームを得意にしている。ボールが動くし、角度があるから怖いよね」と分析。昨季13勝中12勝をドーム球場でマークした“ミスタードーム”の健在ぶりにまゆをひそめた。ヤクルトの開幕カードは阪神との3連戦。しかも舞台は京セラドーム大阪とあって、「メッセ、ガルシアと並んで来られたら嫌だよね」と苦笑いだった。
昨季は屋外球場が苦手だったが、今季は甲子園のマウンドもメジャー仕様にリニューアル。粘土質の硬い土、「ブラックスティック」が導入され、今キャンプでも同じ土が使われている。ガルシアも硬いマウンドが好みで、グッドタイミングの移籍といえる。「(今日も)違和感がなかった。自然と投げられたので感触はよかったよ」。“内弁慶”も返上し、甲子園でも白星を重ねる意気込みだ。
黄色のモヒカンは中日時代から継続。「去年こんな髪形にして、しばらく幸運が続いたのでね」。文字通り、今年は身も心も“虎色”。昨季広島と巨人から3勝ずつ挙げたキューバの怪腕が、矢野阪神の進撃を引っ張る覚悟だ。【真柴健】
▼ガルシアは中日に在籍した昨季、ヤクルト戦で2勝1敗。防御率2・08は、巨人戦の1・80に次ぎ対セ球団では2番目だ。被打率2割7厘はリーグ戦最良。甲子園では0勝1敗7・20と苦戦したが、ドーム球場では12勝(6敗)防御率2・41と好投が続いた。(後略)
(日刊スポーツ 2019年2月6日)
なおガルシアは開幕のヤクルト3連戦には登板せず、次の読売3連戦(東京ドーム)の緒戦に登板するらしい。まあガルシアは正直言ってヤクルト戦での登板を除いてどうでも良いのだが、興味をひかれたのは甲子園の土だ。何も外国人投手が甲子園の柔らかいマウンドを嫌うのは今に始まったことではないが、逆に阪神の選手がメジャーに挑戦した時に、柔らかい甲子園のマウンドにばかり慣れていると苦戦する可能性もあり*1、ガルシアに合わせたというより時代の趨勢で甲子園のマウンドを硬くせざるを得なくなったのだろう。一方で高校野球の投手が甲子園で投げ過ぎた時のダメージが今まで以上に大きくなることも容易に予想される。
甲子園球場の土といえば、私が阪神間で少年時代を送った頃からグラウンド整備を担当する「阪神園芸」の職人芸がよく知られていた。それに触れた日刊スポーツとスポーツニッポンの記事を以下に引用する。
https://www.nikkansports.com/baseball/news/201902040001191.html
甲子園のマウンドがリニューアル 阪神園芸の奮闘記
<日刊スポーツ「リポート」:第3回 阪神担当の磯綾乃記者>
日刊スポーツは記者がオリジナルの視点で取材、構成する「リポート」をお届けします。第3回は阪神担当の磯綾乃記者(27)が新マウンドに迫りました。今季、甲子園のマウンドがリニューアルされ、硬くなる方向です。沖縄・宜野座と高知・安芸の両キャンプ地で、実際に使用する黒土を用いて、試作中。選手の意見を聞きながら、整備を行う阪神園芸の奮闘記をリポートします。
◇ ◇ ◇
第1クールの3日間、ブルペンで投球を終えた選手たちが阪神園芸と話し込む姿が多く見られた。過去のキャンプでは見られなかった光景だ。阪神園芸の金沢健児甲子園施設部長は説明する。「こちらからどうだったか、意見を聞いています。私たちも初めてなので試行錯誤しています」。今季から甲子園のマウンドがメジャーのように硬くなる。それに先行する形で、1、2軍ともにキャンプ地のマウンドが新仕様に整えられた。粘土質の黒土「ブラックスティック」を使用。これが硬さを生む。
投手は繊細で環境の変化に敏感だ。初日のブルペンでは、投球間に足で何度も土を掘ったり、マウンドでつまずくようなそぶりを見せる選手もいた。藤浪は「粘土質で、ねっとりした感じの印象です」と感想を語り、FA移籍の西は初日の投球を終え、「ちょっと粘土質が強かったので、それを弱めてほしいのと土を混ぜてほしい」と詳細に要望を出した。粘土質が強いと土が硬くなり、足で土を掘りにくくなる。プレートに足を引っかけて重心を支える西にとって、大事な部分だった。
選手からの意見を受けて、阪神園芸はすぐに動いた。2日目にマウンドを改良。従来プレートの前には、約3センチ低い部分にゴム状のプレートが埋められていた。その上に土をかぶせており、自分の足場を作るため投手はそれぞれの好みによって、足でその土を削る。しかし新マウンドはしっかりと固められており、足で削りにくい。そこでプレートの前の土を約1センチ低いところで固め、その上に比較的軟らかい土を乗せるように工夫した。その“新マウンド”で投げた西は「ばっちりでした!」と喜んだ。他の投手も「いい感じ」と好評だった。「神整備」と評される阪神園芸が一夜にして、ベストに近づけた。
マウンド改修でブルペンの景色が変わる可能性もある。硬いマウンドは、力がボールに伝わりやすい一方で体への負荷も大きくなる。キャンプ初日に23球を投げた藤川は「連日投げ込んでいくという作業はなくなるのかな。負担が大きいと思う」と振り返った。
阪神園芸は高知・安芸ともホットラインを結び、頻繁に連絡を取り合っている。遠く離れた2カ所のブルペンから選手の意見を吸い上げている。メジャーでは主流の黒土だが、金沢部長は「メジャーがどういうふうに整備しているのか分からないので」と手探りで甲子園流を模索している。
甲子園で新マウンドが完成すれば、整備の仕方も少し変わるかもしれない。これまでは日差しの強さによって水の量を変えるなど、細かい配合をしてきた。「今までは、1~2年ではできないような熟練の技が必要だったけど、今(の土)は元々湿り気があるので整備がしやすい」と金沢部長は言う。マウンド作りは道半ば。阪神園芸が最高の形へと仕上げていく姿にも注目だ。
◆阪神園芸 1968年(昭43)設立。兵庫県西宮市に本社を置く、阪急阪神東宝グループの総合緑化事業会社。甲子園球場、鳴尾浜球場、楽天生命パーク宮城など、プロ野球本拠地をはじめ、スポーツ施設の芝生管理やグラウンド整備を請け負う。学校や商業施設、公園など緑地に関する調査、企画、施工、運営管理も行う。チームの信頼は厚く、17年のCSファーストステージでは雨の中、試合が強行開催されたが、9回まで黙々と整備を続けた。グラウンドを完璧な状態に仕上げる技は「神整備」と絶賛されている。
(日刊スポーツより)
この記事は、土(砂)のブレンドなどの技術的な情報はさほど詳しくないが、プロ野球の投手たちが阪神園芸にフィードバックする様子が興味深かった。なお阪神園芸が楽天姓名パーク宮城の整備も担当しているようだが、阪神と楽天の両球団の監督を務めた故星野仙一が関係をつないだものだろうか。
https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2019/02/23/kiji/20190223s00001000060000c.html
甲子園の土が変わる!メジャー仕様の「硬さ」と伝統の「黒さ」ブレンド
[ 2019年2月23日 06:10 ]
【内田雅也の追球】今年から大リーグ仕様の硬い土を入れる甲子園球場のマウンド表面に新たに粒状の土をまくことになった。グラウンドを管理する阪神園芸が新しい「硬さ」に加え、伝統的な「黒さ」にも配慮して、配合を考案した。
硬い土は米国産輸入品の「ブラックスティック」で、大リーグ本拠地球場の8割で使われているという。粘土質で硬く、投手が軸足で蹴る部分、踏み出した足が着く部分もほとんど削られない。
近年、投手の間で大リーグのように硬いマウンドへの要望が高まり、導入を決めた。土が掘れないため、力が伝わりやすいなどの利点がある。
今回、阪神キャンプ地の沖縄・宜野座村野球場(かりゆしホテルズボールパーク宜野座)のマウンドやブルペンでも入れられており、阪神投手陣からはおおむね好評だ。
ただ、問題は「ブラックスティック」の色は黒土とはいえグレー系で、また粘土質のため水をまくとべとつく。
甲子園球場グラウンドキーパーのリーダー、阪神園芸の金沢健児甲子園施設部長(51)は「散水すると、べちゃべちゃになる。保湿性のある土を上にまく必要がある。しかも甲子園球場のイメージを損なわない黒さがほしい」とみていた。
大リーグでも表面に「コンディショナー」と呼ぶ粒状の赤土をかぶせる。2014年11月11日、甲子園球場で日米野球、MLBオールスターVS阪神・巨人連合が行われた際、同行していた大リーグのグラウンドキーパーが「ブラックスティック」の上にまいていた。商品の使用書にも粒状土の必要性が書かれている。
黒い粒状の土を探したところ、5年前に鳴尾浜球場で試験導入していた島根産業の「ヒートサンド」が思い当たった。宜野座ブルペンで試してみると「色、排水性、保湿性とも良かった」(金沢部長)と甲子園での使用を決めた。すでに甲子園球場の整備も終えた。
島根産業は島根県飯南町の山あいにある。1984年創業当時から育苗培土、つまり米の苗床の土を販売していた。2012年から野球用の土を製造、中国地区の野球場や高校のグラウンドを中心に実績がある。
中国山地で採れる自然の黒土を回転式の釜に入れ、800度で熱し、雑菌や異物を取り除く。回転するうちに土は固まり、直径4ミリ以下の粒状になる。この黒土に山砂、浜砂を混ぜる。配合比率は黒土7対砂3など状況に応じて変える。
商品の名付け親でもある澤田正道営業部課長(41)は「厳選した黒土を使い、金沢部長の助言に沿って配合した。土と砂の比率は甲子園独自の“金沢ブレンド”と言えます」と話した。伝統の黒さも得て、甲子園のマウンドは硬く、新しくなる。
(スポーツニッポンより)
こちらは技術的な工夫が興味深い。日刊とスポニチの記事が違った観点から書かれていることも面白かった。引用文がやたら長いしヤクルトのライバル・阪神に関する話題だがあえて取り上げた次第。