山本太郎及び、彼が議席を失った今も党代表として君臨する山本元号党をめぐって、反安倍・反自民の人々の間でも激しい議論が巻き起こっているが、それらの議論において、あまり、というよりほとんど言及されないことで、私がめちゃくちゃ気になっていることが一つある。
それは、山本太郎が小選挙区制を軸とする現行の衆議院の選挙制度をどう評価しているのかということだ。
私の立場ははっきりしており、1990年代に現国民民主党の小沢一郎が中心となって推進し、実現させた小選挙区制の導入は、日本の政治をダメにした元凶であって、大きな誤りだったというものだ。だから、かつてのみんなの党の「一人一票比例代表制」を、定数減という大きな欠陥を除いて評価する記事を何度も公開するなどしてきた。
しかし、選挙制度に対する人々の関心はいたって低く、毎回のように自民党が衆院選に圧勝した直後にのみ、小選挙区制を軸とした衆議院の選挙制度の弊害が語られるにとどまっている。私は、それではダメだ、選挙制度の議論をせよといつも言っているのだが、こういう意見は全くの少数派であるらしく、全く顧慮されない。テレビに出てくるジャーナリストや政治評論家からは、小選挙区制の問題点を指摘する声がたびたび聞かれるようになったのだが、大衆がそれに全くついてきていない。
今年夏の参議院選挙での山本元号党の戦略で私がもっとも評価できたのは、東京選挙区を除いて同党が比例区に特化したことだった。どのくらいの得票率と議席を得るか。そこに同党はターゲットを絞り、2議席を得る大きな成果を出した。
とはいえ、参院選が終わって時間が経過するとともに同党の政党支持率は下がり、現在は1%前後だ。2007年衆院選で大ブレイクした立憲民主党も、衆院選終了後には同じような支持率の推移だったが、山本元号党の場合は立民よりもスケールが一回り小さい。
そこで、早ければ年明け早々にも、と言われる衆議院の解散と総選挙に対して、山本元号党はどういう戦略を立てるのかが問われるわけだが、同党の政党支持率を考えた場合、小選挙区への候補者の擁立はそこそこにとどめて、比例ブロック、特に同党が比較的強い大都市を含むブロックで比例代表の当選を増やすことを狙うのがもっともリーズナブルな戦略だろうと私は思う。
かなりの組織票を誇り、なおかつ連立与党の自民党からの選挙協力も期待できる公明党でさえ、2017年の衆院選では全部で53人の候補者のうち、小選挙区の立候補者はわずか9人で、比例ブロック中心の選挙戦略を立てている。
ところが山本太郎は今夏の参院選終了直後から今までずっと、小選挙区に大量の候補を立てると明言し、現在は神奈川4区(や12区)に候補者を立てるとか立てないとかの話をめぐって、一部の野党支持者から「自民党の補完勢力だ」との強い批判を受けている。
次の総選挙では、「野党共闘」路線への傾斜を強める共産党が、従来のように大量に小選挙区へ候補を擁立するのを改めて、かなり候補者を絞り込んでくるのではないかとも考えられるが、山本元号党の場合はいざ解散総選挙となった場合にいかなる動きをするのか、正直言って予測しづらい。
ただいえるのは、衆議院の小選挙区制に対して山本太郎がいかなる立場をとるかによって対応は変わってくるだろうということだ。
たとえば小沢一郎のような「小選挙区制原理主義」をとるなら、できるだけ多くの小選挙区に候補を擁立することになるだろう。
そうではなく、(私が強く望むように)比例代表制を軸とした選挙制度に改めるべきだという立場をとるなら、比例ブロック中心の衆院選の戦い方になることもあり得る。
共産党は以前は、全小選挙区制に候補を立てていた。それには比例票を掘り起こす意味合いがあった。最近は、2009年の政憲交代選挙にしても、「野党共闘」路線に移った後の直近の2017年衆院選にしても候補者を立てない選挙区が増えた。2017年は全部で289の小選挙区に対して206の選挙区で候補を擁立、残り83選挙区では候補を立てなかった(同じ選挙で自民党は277選挙区、希望の党は198選挙区、立憲民主党は63選挙区で候補を立てた)。
山本太郎は、次期衆院選に100人規模の候補を擁立し、原則小選挙区と比例区との重複立候補にすると公言している(下記時事通信の記事参照。なお下記記事にはこの日記のNGワード=現元号=が含まれるが仕方ない)。
れいわ、衆院選へ候補公募 早期解散に備え、選定急ぐ
2019年11月12日18時09分
(時事通信より)
要するに、山本太郎はゆくゆくは小選挙区制のもとで自らの元号党を第一党にして自らが総理大臣になるという青写真を示しているわけだ。
もちろん彼には小選挙区制に対する問題意識は毛頭なく、小沢一郎の「小選挙区制原理主義」を踏襲しているとみられる。
これは、衆院選の小選挙区制を強く批判する私としては、到底容認できない。
山本太郎がこのような動きをする背景としては、まず山本太郎自身が、現在ではテレビに出てくる少なくない政治のコメンテーターでさえしばしば指摘するようになった、小選挙区制の問題に向き合っていないことが挙げられる。これは、山本太郎が小沢一郎(の問題点)に全く向き合えていないことの反映ともいえる。
それと同時に、「野党共闘」が選挙制度の問題を棚上げしてきたツケが回ってきたともいえる。現在、やはり来年早々の総選挙を見据えて、立憲民主党の枝野幸男を中心にしつつ、問題の小沢一郎も加わって、立民・国民民主党に社民党まで加えた野党の合流話が進められているようだが、もともと小沢系・反小沢系を問わず民主党系は衆院の小選挙区制導入を軸とした90年代の「政治改革」を推進してきた政治勢力だ。それに、「政治改革」の時代に突如として小選挙区比例代表併用制から小選挙区比例代表並立制へという、名前は似ているが全く別の小選挙区制重視の制度に乗り換えるという致命的な失策を犯した社会党の末裔たる社民党が呑み込まれようとしている。
「市民連合」も共産党も、「野党共闘」を進めるに当たって、選挙制度の問題をこれまで棚上げしてきたあげくの果てにこうなった。
そして山本太郎にも90年代の「政治改革」を否定する考えは全くないようだ。だから、「100の小選挙区に候補を立てる」ドン・キホーテ的な方向へと突き進んでいる。
このままこれが実行されれば、2012年の民主党と「日本未来の党」の惨敗劇の再来になる。つまり山本元号党と立民・民民(の多く)に社民が加わるかもしれない民主党系野党とが共倒れして、2012年の衆院選と同様の自民党圧勝が再現する。当然ながら、この場合には日本国憲法の改定まで突き進んでしまうだろう。
そうではなく、山本元号党が「野党共闘」の傘下に入って候補の調整を行う可能性もなくはない。この場合、調整役を務めるのは今や国民民主党の一兵卒(?)の小沢一郎だろう。しかし私はそんな茶番は全く望まない。
私が望むのは、山本太郎が小選挙区制の問題点と向き合い、衆院選を比例ブロック中心の戦い方に切り替え、小選挙区には安倍晋三の山口4区など一部の、従来野党の勝ち目がほとんどないと見られ、かつ山本太郎自身が立候補すれば大いに注目されるに違いない選挙区などに限定して候補を立てることだ。もちろんその際、将来的には小選挙区制を廃止して比例代表中心の選挙制度への再改変を目指すという目標をはっきり打ち出すことが望ましい。しかし、小沢一郎とまともに向き合うことができない山本太郎にそんなことができるなどという幻想を、私は一切持っていない。
長く続いた安倍政権にも、ようやく金属疲労のような現象が見えてきた。そろそろ政界にも数十年ぶりの大きな変動が起きる予感がするが、その際、90年代の「政治改革」よりもさらに悪いとんでもない方向に行かせないための正念場が迫ってきた。
今、言うべきことを言わずにおけば、今後何十年にもわたる悪影響をもたらす痛恨事を招来することになるだろう。心ある人たちは、自分の意見を率直に出し合い、議論することが絶対に欠かせない。
[追記]
記事を公開したあとに下記ブログ記事を読んで知ったのだが、山本太郎は自ら山口4区に立候補することを視野に入れているともとれる発言をしたとのこと。これは悪くない考えだ。