昨年春頃、西浦博・北大教授(当時。現京大教授)が試算した「何もしなければコロナ死42万人」という試算は、当時見積もられていた集団免疫獲得に必要な感染率60%に日本の人口と新型コロナウイルス感染症による真の致死率を掛けた数字が42万人になったと思われるが、これから逆算すると、西浦氏は真の致死率を0.55%とみていたことになる。
下記は押川正毅氏のツイート。
大木隆生氏の提言
— Masaki Oshikawa (押川 正毅) (@MasakiOshikawa) 2021年1月17日
「新型コロナと共生」
「集団免疫を獲得することがゴール」
「新型コロナは欧米人には恐ろしい感染症だが、日本人にとっては通常のインフルエンザ程度」
さすがに昨年の話かとおもったら、2021.1.5付!
こんな見解を持つ人物が首相と1時間も面会とは、まずすぎる… https://t.co/OQCBy8OriS
この批判には基本的に同意する。
大木隆生氏の
— Masaki Oshikawa (押川 正毅) (@MasakiOshikawa) 2021年1月17日
「新型コロナは欧米人には恐ろしい感染症だが、日本人にとっては通常のインフルエンザ程度」
の誤りについて、念のため。
致命率(死者数/感染確定者数)は日本の現時点で1%強。欧米諸国と比べて低めですが、桁違いではありません。感染拡大を放置すれば同程度(以上)に悲惨なことに。 pic.twitter.com/KG8E7avyD5
上記ツイートに示されているグラフは興味深い。日本でのcovid-19の致死率は、昨年春には5%を超えていたが(5.3〜5.4%くらいだった)、現在では1.35%ほどになっている。今後、昨年11月後半以降急増した第3波による死亡者が増え、致死率が1.5%以上になる可能性がかなりあると思うが、それでも真の致死率の3倍以内に収まると思われる。私はこのことから、第1波の頃には日本国内でのPCR検査による感染者の捕捉率が10%程度だったのが、現在では3分の1以上半分以下(33〜50%)にまで上がっているとみている。つまり、日本国内でのPCR検査は、第1波の昨年春と比べて現在はずっと拡充されていて、陽性者の捕捉率は飛躍的に向上した。
これに対し、韓国は最近致死率が悪化して1.7%程度となり、アメリカより悪くなった。アメリカと韓国はともに捕捉率が3分の1(33%)をやや下回っていると思われる。但しアメリカの場合は捕捉率はそれよりも高い一方、医療崩壊によって致死率が上がった可能性もある。
さらに、欧州諸国は捕捉率が低く、医療崩壊の影響も強いと思われる。
欧米と日本や韓国を含むアジア諸国で大きく違うのは、人口あたりの感染者数だ。
第1波の時には、弊ブログは日本国内での致死率の高さを執拗に指摘して、PCR検査数が少なすぎると主張していたが、現在では相当に改善され、欧米や韓国にひけをとらないレベルになったというのが私の認識だ。
そして、検査の件よりもはるかに重大な問題は、人と人との接触を抑える施策を、年初の緊急事態宣言以前には政府(安倍・菅両政権)が全然とらず、それどころか「GoToキャンペーン」なる逆効果の政策を推進したことだ。この結果、アジアでは最悪レベルの人口あたり陽性者数を記録するに至った。
だから、PCR検査を増やすことばかりしか言っていないように見える人たちの意見には現在の私は同意できない。それよりも今は、人と人との接触を減らして新規感染者数を減らさなければならない時期なのだ。これをやらなければ、医療崩壊によって真の致死率を上回る死亡率になってしまうからだ。
大木隆生は集団免疫獲得が目標だなどと言っているようだが、集団免疫を獲得するためにはワクチンまたは自然感染で、たとえば人口の6割が陽性になる必要があるのであって、ワクチンが普及していない現在、野放しで感染を拡大させると、それこそ42万人の死者が出ることになる。こんな人の意見にばかり耳を傾けるのが菅義偉と彼の政権なのだ。寒心に堪えない。
致命率(Case Fatality Ratio = CFR)の分母の感染確定者数は実際の感染者数より小さく、検査体制は国や時期によっても違うので、実際の感染者数を分母にした IFR = Infection Fatality Ratio の方が本質的には意味がありますが、推定が難しい。まあCFRを見て、日本人にとっても十分脅威だとは言えます。
— Masaki Oshikawa (押川 正毅) (@MasakiOshikawa) 2021年1月17日
これには全面的に同意する。
シンガポールのCFRが低いのは
— Masaki Oshikawa (押川 正毅) (@MasakiOshikawa) 2021年1月17日
- 初期から検査体制を充実させていた(+コンパクトな都市国家)ので感染者の捕捉率が高い。従って、シンガポールのCFRはIFRにかなり近い
- 感染者の多数は若い移民労働者で死亡率が低い
からでしょうが、殆ど死者が出ていないシンガポールもちゃんと封じ込め政策です。
シンガポールの抑え込みが成功していることにも同意するが、同国の致死率0.049%*1というのは低すぎないか。同国では、本当は新型コロナによる死亡と診断すべきところを、別の死因に診断してしまっているケースが多いのではないかと私は疑っている。
掛け値なしで新型コロナ対策に成功している国だと私がみなしているのは台湾とニュージーランドだ。韓国は日本よりはましかもしれないが、台湾やニュージーランドと比較するとはるかに悪く、かつ台湾やニュージーランドより日本にずっと近い。またオーストラリアは日本よりも成功しているかどうか自体疑問だ。数字を挙げると、台湾では陽性者855人に対して死亡者7人で致死率0.8%、ニュージーランドは陽性者2,256人に対して死亡者25人で致死率1.1%だ。一方、韓国は陽性者72,340人に対して死亡者1,249人で致死率1.7%、オーストラリアは陽性者28,708人に対して死亡者909人で、致死率は3.1%だ。韓国の場合は検査数不足が懸念される事態になり始めていると思われるし、オーストラリアに至ってはそもそも陽性者の捕捉率が低く(20%未満ではないかと思われる)、人口を考慮すると日本と同程度だとしか思われない。実際、人口あたりの死亡者数は日本とほぼ同レベルだ。
掛け値なしで成功していると思われる台湾・ニュージーランドと日本とを比較すると、致死率は日本が少し劣る程度だが、人口あたりの感染者数が全然違う。昨年5月の最初の緊急事態宣言解除以降、人と人との接触を制限する施策を安倍・菅両政権が全然とってこなかった結果、緊急事態宣言の再発出に追い込まれた。
以上からいえることは、現在の日本での最大の課題は新規陽性者数を減らすことであって、そのためには人と人との接触を抑えることに尽きる。検査の拡充も引き続き課題の一つではあるが、それよりも人と人との接触を抑える必要性の方がずっと高く、これが喫緊の課題だ。これがこの記事の結論。
*1:ジョンズ・ホプキンス大のサイトを参照すると、陽性者59,113人に対して死亡者はわずかに29人。