大阪府がついに東京都を抜いて新型コロナ死亡者数最多首位の座を奪還した。読売軍との首位攻防戦に勝ち越した阪神タイガース*1とともに、大阪と兵庫(阪神)の快進撃が止まらない。
5月16日発表からコロナで亡くなった方の月別数大阪・東京比較をグラフに。同発表で大阪は15名の死亡。東京は0。累計で大阪1958名に,東京1951名のまま。大阪の5月の16日間累計は502名に。累計、死亡率、月別累計いずれも全国一、過去最大。今月どこまで?大阪の医療棄民の惨状。 pic.twitter.com/GDswLOBJKe
— Jun K (@JK42779153) 2021年5月16日
これでもまだ「吉村洋文を支持する大阪府民」は多いのだろう。日本全体でも「菅義偉を支持する日本国民」がまだまだ多い。朝日新聞の世論調査では内閣支持率が33%にまで落ちたが、まだ3人に1日は菅政権を支持しているということでもある。共同通信の世論調査では、驚くべきことに支持率は41.1%もある。前の週に行われた時事通信の世論調査でも、支持率は32.2%だった。
時事通信世論調査(5月7~10日実施 14日発表)
— 三春充希(はる)⭐2021衆院選情報部 (@miraisyakai) 2021年5月14日
内閣支持率 32.2%(4.4ポイント減)
不支持率 44.6%(6.9ポイント増)
共同通信世論調査(5月15~16日実施)
— 三春充希(はる)⭐2021衆院選情報部 (@miraisyakai) 2021年5月16日
内閣支持率 41.1%( 2.9ポイント減)
不支持率 47.3%(11.2ポイント増)
朝日新聞世論調査(5月15~16日実施)
— 三春充希(はる)⭐2021衆院選情報部 (@miraisyakai) 2021年5月16日
内閣支持率 33%(7ポイント減)
不支持率 47%(8ポイント増)
但し、新型コロナウイルス感染症に対する政府の対策は、25%ほどの人々にしか支持されていない。
新型コロナウイルス 政府対応の評価の平均
— 三春充希(はる)⭐2021衆院選情報部 (@miraisyakai) 2021年5月16日
5月15~16日に実施された共同通信と朝日新聞の世論調査を反映しました。政府対応の評価は過去最悪となっています。 pic.twitter.com/NmRZ5ipT3w
上記のグラフを見ると一目瞭然、新型コロナの第2波、第3波、第4波の3つのピークと政府の対応への不支持のピークが重なっている。しかし、ピークが過ぎれば人々は菅を許してしまう。
他国では、閣僚や大統領が優先してワクチンの接種を受けたりしないか、仮に接種を受けた場合でもそのことを公表しない。ドイツのメルケルは定められた順番に従って接種待ちをしているし、あの厚顔無恥はトランプは接種を受けていたけれども、その事実を公表したのは大統領を退任した後のことだった。しかるに、全世界の平均値よりも接種完了率の低い日本では、菅が接種を受ける映像が堂々と公表され、人々はそれを当然のこととして受け止めた。この国では、人々の多くが奴隷根性に囚われている。
例の高橋洋一の「さざ波笑笑」に関して、平河エリ氏が論考を公開している。
(前略)高橋氏はアドバイザーである。つまり、首相に対してご自身の見識に基づいて、「コロナはさざ波ですよ」とアドバイスしている。言うなれば、オリンピックを開催するという首相の判断に、多少なりとも影響を与えているということである。
つまり、政権の「さざ波」発言に対し、何ら問題視しない姿勢を見れば、むしろ、政府がこれを追認しているのではないか、と考えられる。
実は、これを裏付けるような報道が出ている。自治体によっては7月末までの完了を目標としている高齢者のワクチン接種が間に合わないという報告を受け、菅義偉首相が「ショックだった」と述べているのだ。
「さざ波」と述べるアドバイザーが留任し、ごく常識的な報告(自治体の声を聞けばすぐに分かることだし、国会でも何度も指摘されていた)に「ショック」と述べる。これは、奸臣の甘言を信じて現実を見ようとしなかった中国の暗君に通じるものがあるのではないか。
官邸は今物事を正確に把握できているのだろうか。私は疑問に思う。
政府は今月14日、緊急事態宣言の対象区域に北海道、広島、岡山を追加した。感染者数の急増を考えれば、これ自体は正しい判断だろう。しかし、午前中の専門家らによる基本的対処方針分科会まで、政府は追加しない方針を固めていた。
専門家がしっかりと政府方針を修正したこと、政府がしっかりとそれを受け止めて方針変更したことは、重ねて評価されてしかるべきだろう。しかし問題は、専門家の判断と真逆の判断を政府がしていたということだ。政府内では未だ「さざ波派」が主流なのではないかという疑念が拭えないのである。
政府は公式には、今の感染状況を深刻に捉えている。しかし、本当のところはどうなのだろう。
医療体制の危機を訴えていた日本医師会の中川俊男会長は、自民党・自見はなこ議員の政治資金パーティーに出席していた。菅首相は、すでに前知事となった森田健作氏と会談し、「(五輪)やるでしょ」「おお、やるよ」という、ゴルフの日程調整のような間抜けなやり取りをしていた。
私が危惧しているのはこういうことだ。内閣総理大臣たる菅義偉氏は、「本音」ではコロナを大したことだとは思っていないのではないか。
しかし「建前」では、コロナは重要なことだと言わざるを得ない。この「本音と建前」の板挟みにあい、政策は迷走する。なぜなら「建前」としてのコロナ対策を行うためには「形だけ」「数字だけ」整っていればいいからだ。
こうして考えていくと、高橋洋一氏が内閣官房参与から罷免されない理由はよく分かる。高橋氏は、コロナがさざ波と思っている内閣総理大臣からすれば「本音を言ってくれる」貴重な人材であり、むしろ高橋氏の発言に「よく言ってくれた」と快哉を叫んでいるのだ。いや、むしろ、オリンピックを開催するためには「さざ波」でなくてはいけない。そうであるはずなのだ、という心の支えになってすらいる可能性がある。
上記のことは単なる推測であり、できれば私としては、総理大臣は本気で危機感を持っていると思いたいところだ。しかし、そうすると、「さざ波」などと述べる人間が政府のアドバイザーに留まり続ける論理的理由が全く見つからない。
かの名探偵シャーロック・ホームズは「白面の兵士」において「全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても、それが真実となる」という名言を残した。「総理はコロナ感染状況をさざ波だと考えている、あるいは考えたいと思っている」というのは、極めて不可解な仮説であるが、他の仮説を消去していくと、論理的に達することが出来る唯一の仮説である。
脱線するが、「白面の兵士」は1926年*2に「ストランド」誌に発表され、『シャーロック・ホームズの事件簿』に収録された。ハンセン氏病に関する差別的な表現が含まれる短篇であって、今も新潮文庫に残る延原謙訳では、著者コナン・ドイルが書いた差別的表現が、注釈もつけられずにそのまま訳されているという。
このハンセン病に関して、日本で「らい予防法」が廃止されたのは実に1996年になってやっとこさ、という遅さだった。お上にはとことん弱いけれども弱者に対する差別は大好き、という日本の風土(「国民性」などではない)を物語る。
現在もこの国には、「PCR検査を大規模にやって感染者を隔離した上で、未感染のみの社会にしてしまえば、行動制限も要らないしマスクも要らない」などと短絡的に考えている人間が少なくない*3。実際にはPCR検査は間隔を開けて二度行わなければ「感染者のみ隔離」などできないのだが(感染初期には閾値に到達せずPCR陽性にならないため)、広島県の広島市や福山市などで実施が始まった大規模PCR検査では一度しか検査が行われない。つまり広島の大規模PCR検査には、感染状況の把握という意味しかない。あくまでもPCR検査の拡充と「人と人との接触の抑制」の両方が求められる。しかも、日本には感染経路を追える人材も組織も不足している。専門家の数は少ないし、長年の新自由主義政策によって保健所の数も大きく削減されてしまった。足りないのは何もPCR検査数だけではないのだ。
しかし、菅義偉は上記の議論以前の論外だ。私は平河エリ氏よりももっと辛辣な意見を持っている。菅義偉は「コロナは大したことないものであってほしい」という願望に基づいて政策を決めており、高橋洋一は「さざ波笑笑」のツイートを発すれば菅義偉のご機嫌が取れると思ったからあんなツイートを発したのだ。実際には高橋が昨年「現状では東京五輪の開催は難しい」とツイートしたか、または発言したことがネットで暴かれている。URLを記録し損ねたのでここではその証拠は示せないが、興味のおありの方は調べていただきたい。高橋は菅に媚びへつらっているだけの超俗物なのだ。
日本が同じような行動パターンで深みにはまった例は過去にもある。いうまでもなく第2次世界大戦の末期だ。政府も軍部も願望に基づいて政策や作戦を立て、ついに敗戦に至ってしまった。
私は安倍晋三の総理大臣退任をもって、「崩壊の時代」から「混沌の時代」へと移行したとこれまで考えてきたし書いてもきたが、それは誤りだった。
「崩壊の時代」は今もまだ続いている。