kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

また大阪でコロナ死42人/日経メディカルの「大阪での第6波の致死率は0.02%」との記事は初歩的な誤り/菅原琢氏の三春充実氏批判こそバイアスがかかっているのではないか

 国内の新型コロナウイルス感染症の新規陽性者数及び死亡者数のグラフ(NHKのデータ*1に基づく)を以下に示す。

 

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国内のCOVID-19新規陽性者数及び死亡者数 (2020/3-2022/2, 7日間移動平均対数=NHK)

 

 ご覧の通り、新規陽性者数のピークアウトが確認されるが、死亡者数はなお増え続けている。ただ対数グラフの傾きは鈍り始めており、日に1000人を超えるようなことはまず起きないだろうと思われる。なお上記グラフは7日間移動平均値なので昨日(2/15)の数字は163.3人。昨日の死亡者数は236人だった。

 例によって大阪府が占める比率が高い。下記の朝日新聞デジタルの記事によると、昨日は42人の志望者が報告された。全国の18%を占め、普段通りの水準(平均で全国の16〜17%)である。

 

www.asahi.com

 

国内の死者、最多の236人 大阪で9カ月ぶり40人超、愛知28人

2022年2月15日 21時32分

 

 新型コロナウイルスに感染し亡くなった人は15日午後8時現在、全国で236人が確認された。神戸市が1カ月半の死者93人をまとめて公表した昨年5月18日の計216人を上回り、1日あたりでは過去最多を更新した。新たな感染者は8万4221人が確認され、国内の感染者数は累計で400万人を超えた。300万人に達してから12日間で100万人増えた。

 死者が最も多かったのは大阪府で、50~90代の42人が亡くなった。愛知県の28人、兵庫県20人と続いた。東京都は16人だった。

 大阪府の死者が40人を超えたのは、重症者が相次いだ第4波の昨年5月15日以来、9カ月ぶり。吉村洋文知事は「もともと重い持病がある方や高齢者に感染が広がって亡くなっている。コロナの肺炎というより(感染によって)それ以外の持病が悪化している」と話した。愛知県の大村秀章知事も亡くなる人は感染で体力が低下する高齢者がほとんどだとし、高齢者施設での巡回接種や検査をさらに進める考えを示した。

 この日、栃木、香川、福井、愛知、岐阜の5県で感染者が過去最多だった。東京は全国で最も多い1万5525人だったが、前週の火曜日(8日)より1588人少なく、7日連続で前週の同曜日を下回った。

 

朝日新聞デジタルより)

 

出典:https://www.asahi.com/articles/ASQ2H74FNQ2HUTIL001.html

 

 大阪府知事・吉村洋文は「コロナの肺炎というよりそれ以外の持病が悪化している」と抜かしているが、それは他の46都道府県も同じはずだ。問題はなぜ大阪府における死亡者数対新規陽性者数の比率が他の大部分の都道府県よりも高いかということだ。

 この件に関して、マスコミ等が悪質きわまりないミスリーディングをやっているのでその悪例を示す。下記は2月1日の日経メディカルの記事。

 

medical.nikkeibp.co.jp

 

 記事は有料なので最初の方しか読めないが、大阪での新型コロナ第6波による致死率はわずか0.02%、つまりオミクロン株に感染しても5000人のうち1人しか死なないかのように読める。しかし現実には、現在の見掛けの致死率さえ全国平均で0.1%に達している。大阪は全国平均より大幅に高い。

 下記は上記記事についたはてなブックマークのコメント。

 

大阪第6波、重症化率0.05%、致死率0.02%と低水準

この致死率の計算には初歩的かつ致命的なミスがあるという指摘 <a href="https://corona.quora.com/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%BA%9C%E3%81%AE%E9%87%8D%E7%97%87%E5%8C%96%E7%8E%870-05-%E8%87%B4%E6%AD%BB%E7%8E%870-02-%E3%81%AF%E6%9C%AC%E5%BD%93%E3%81%8B?ch" target="_blank" rel="noopener nofollow">https://corona.quora.com/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%BA%9C%E3%81%AE%E9%87%8D%E7%97%87%E5%8C%96%E7%8E%870-05-%E8%87%B4%E6%AD%BB%E7%8E%870-02-%E3%81%AF%E6%9C%AC%E5%BD%93%E3%81%8B?ch

2022/02/06 20:34

b.hatena.ne.jp

 

 リンク先は下記。

 

corona.quora.com

 

 以下引用する。できればリンク先を直接ご覧いただきたい。

 

Kenn Ejima
 
 

日経メディカルより、大阪府のデータから2022年1月30日時点での現状を集約した結果、第6波の重症化率0.05%、致死率0.02%という、驚くべき数字が報告されています。

もしこれが本当であれば、すぐにでもインフルエンザ相当の扱いとしても問題ない水準ということになります。

しかし、この報告には初歩的かつ致命的なエラーがあります。皆さんは見抜けましたでしょうか。

 
 
 
大阪第6波、重症化率0.05%、致死率0.02%と低水準
オミクロン株が流行の主流となっている第6波においても、コロナ重症者や死亡例の報告が相次いでいます。ただし、過去の流行期に比べて、第6波では重症化率や致死率が低下していることを示すデータも積み重なってきました。大阪府について、2022年1月30日時点での現状を集約しました。
 
 

数字の根拠となる、重要な部分を原文ママで引用します。

第6波の重症化率は、1月23日時点での陽性判明日別に見た集計によると、全年齢で0.05%(5万9353人中27人)であり、60歳代以上でも0.4%(5258人中20人)と、過去の流行期に比べて低いまま推移している。直近の第5波と比べると、全年齢で20分の1、60歳代以上でも10分の1以下に過ぎない(図1)。

 

いかがでしょうか。


さて、あまり引っ張っても仕方がないので、答え合わせをしてみましょう。

致死率、正確にいうと「致命率(CFR = Case Fatality Rate)」の計算式は、単純に言えば

  • 致命率:死者数 / 陽性者数(deaths / cases)

ですので、数式自体はとても簡単そうに見えますね。ところが、問題は「分母」です。

感染者は、陽性になってすぐその日のうちに死ぬわけではありません。

感染し、検査が陽性になり、入院して、治療を行い、重症化するまでには7日程度、死亡するまでには17日程度の時差が生じます。つまり、現在の死亡者は17日前に感染した人の転帰なのです。したがって、分母に持ってくるべきは「17日前の時点での陽性者数」となります。

一般的に言って、CFRの計算では確定診断から死亡または回復までの期間T(diagnosis to outcome)をどう取るかが非常に重要になってきます。計測時点の日付をXとすると、CFRの計算式は、

CFR = deaths at X / cases at (X - T)

となります。ここでT=0にする、すなわち「現時点での陽性者数」を基準とすることは、決してやってはいけない初歩的なエラーです。とくに感染者数が急増している局面でこれをやってしまうと、CFRを大きく過小評価する結果になってしまいます。

実際のデータは、どうでしょうか。大阪府が発行している1次データを見てみましょう。

第67回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議

ここでも確かに、死亡者数14人を59,353人で割って0.02%の死亡率と計算していることが確認できます。大阪府 新型コロナウイルス感染症対策サイトで累計の実数を確認してみると、第六波の始点と定義されている12/17時点で203,345人、1/23時点で262,683人、よってこの間に感染した人は59,338人であるため、実際にT=0と置いて誤った計算をしていることが確認できました。

これを、正しく「17日前の時点での陽性者数」つまりT=17で計算しなおすと、1/6時点で累計204,869人となるため、12/17以降の第六波での増分は204,869 - 203,345 = 1,524人となり、CFRは14/1,524 = 0.9%となりました。致死率0.9%ならば、デルタとほぼ同等です。

むしろ、14人中6人がワクチンを打っていたことを考えると、デルタより強毒とすら言えてしまう可能性もあります。(コメント欄でご指摘いただきましたが、1/6時点といえばオミクロンへの置き換えが進行中の時期であるため、かなりの割合が実際にデルタであった可能性もあります。そう考えると、デルタとあまり変わらない数字になることについても違和感がなくなります)

念のため、幅をもたせてT=15~19の範囲でも計算しておくと、1/4時点の204,120人(775人)を基準とすると1.8%、1/5時点の204,364人(1,019人)なら1.4%、 1/7時点の205,540人(2,195人)なら0.64%、1/8時点の206,431人(3,086人)なら0.45%となります。

つまり「実際の死亡率は、おそらく0.45~1.8%のあいだのどこか」ということになります。オミクロンでは転帰までの期間が短くなっているという報告もあるので、より0.45%に近いほうの数字だと考えられます。

この数字であれば、オミクロンの致命率はデルタと比べてだいたい1/2~1/3ぐらい、という各国からの報告とも大きくは違わない結果ですので、それほど大きく外してないと思われます。

少なくとも、T=0で計算した本記事の「重症化率0.05%、致死率0.02%」という数字は、現実から20~30倍ぐらい外れている可能性が高いということが言えるでしょう。

CFRを計算するときにT=0をセットしてしまうという「ありがちなミス」は、すでに2年前に指摘していました。

Kenn Ejima
 · 1年前
これはとても良い質問で、ぜひ皆さんに知っておいていただきたい「疫学の数字の読み方」の基礎です。 実は致死率をあらわす数字には2種類あります。ひとつが死亡率(mortality rate)で、もうひとつが致命率(case fatality rate)です。この二つは全然違うものなので、混同しないように気をつける必要があります。 違いが分かりやすいように単純化すると、以下のような感じです。 * 死亡率:死者数 / 総人口(deaths / population) * 致命率:死者数 / 患者数(deaths / cases) 患者数を少なく封じ込められれば、致命率が高い病気であっても死亡率は低く保てることがわかるか…
 

大阪府の対策本部、そして日経メディカルといった専門性の高い機関がこのようなセンセーショナルな見出しとともに誤解を広めてしまうというのは非常にまずいことです。

この点、訂正を促したいと思います。

 

出典:大阪府の重症化率0.05%、致死率0.02%は本当か - 新型コロナウイルス情報室

 

 日経メディカルの記事は検索語「大阪 致死率」でGoogle検索をかけたら最初のページに表示された。私はタイトルを見た瞬間嘘八百の記事であることを見抜いたが、普段から問題意識を持っていない人がタイトルだけを見たら、「なんや、オミクロンはやっぱりただの風邪かいな。吉村はんはようやっとるやないか」と思うかもしれない。そんな積み重ねで現在の自民党政府(岸田文雄政権も安倍・菅の無策をそのまま継承している)や吉村府政の失敗を許してしまっている。

 下記菅原琢氏のツイートも問題含みであるように私には思われる。

 

 

 「データを扇動に利用している」点では、前記日経メディカルの記事等の方がよほど悪質であるようにしか私には思われない。

 平河エリ氏の反応も大いに腰が引けている。

 

 

 

 特に後者のツイートは問題だ。誰が「感染者数で政治を語」っているのだろうか。

 5ちゃんねるが流行らせた「#吉村はんはよう殺っとる」というタグに示されている通り、(人口あたりの)死亡率で政治を語っているのだ。

 死亡率は感染率と致死率の掛け算だから感染者数が多いファクターが入っているというのなら*2、致死率に論点を絞っても良い。そこでも大阪府の数字は非常に悪く、これは政治の責任抜きに論じることなど絶対にできない。

 菅原氏のツイートこそ、大いなるバイアスがかかっているのではないか。

 なお、私自身は「維新主要打撃論」の立場に立つので、データを維新攻撃の材料として用いている。このことを明言しておく。

*1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/

*2:なお、コロナの感染率が都市部で高く、そのことは合理的に説明できるのは確かだが、日本より人口密度が高い台湾がオミクロン株を抑え込んでいる事実もある。ただ、これは大阪府ではなく自民党政権の政策の問題になるが。