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古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

非正規雇用の活用を30年前に提言したら…「今ほど増えるとは」 労組側「やっぱりこうなった」(東京新聞)

 なんと、あの悪名高い「新時代の日本的経営」をまとめた責任者が東京新聞のインタビューに応じていた。

 以下、東京新聞記事から引用する。

 

www.tokyo-np.co.jp

 

正規雇用の活用を30年前に提言したら…「今ほど増えるとは」 労組側「やっぱりこうなった」

2023年2月27日 06時00分

 

 非正規労働者が増えるきっかけになったといわれる報告書を1995年にまとめた日経連(現経団連)元常務理事の成瀬健生さん(89)が、本紙のインタビューに対し、雇われて働く人の4割近くを非正規が占める現状に「今ほど増えるとは思わなかった」と証言した。約30年の時を経て日本の賃金停滞へとつながっており、非正規の急増に歯止めをかけなかった経営者に対し「人間を育てることを忘れてしまった」と警鐘を鳴らした。(畑間香織、渥美龍太)

 

 報告書名は「新時代の日本的経営」。経営で三つの雇用の形を組み合わせることを提言した。このうち契約社員や派遣ら非正規を「雇用柔軟型」と名付け、企業が人件費を抑えるために活用する方向性を示した。

 

 新時代の日本的経営 終身雇用や年功賃金を中心とする日本的雇用の見直しを求める提言。急激な円高や不況を受け、人件費を抑えるのを目的に3種類の雇用を組み合わせる「雇用ポートフォリオ」の導入を企業に促した。正社員に当たる「長期蓄積能力活用型」、専門能力を生かす「高度専門能力活用型」に加え、現在の非正規労働者に当たる「雇用柔軟型」を設定。企業が非正規を増やす方向性を示したとされる。

 

 当時、日本は先進国が協調してドル高を是正する「プラザ合意」(85年)を機に円高が急伸、その後のバブル崩壊で不況に陥った。成瀬さんは報告書の作成について「円高で賃金が上がり過ぎたから下げるしかなかった。このままでは企業がつぶれるという緊急避難の意図があり、内容が経営者に利用されるのは仕方がない」と説明した。

 

 公表後、非正規は増え続けた。95年は1001万人と雇用者の20.9%だったが、2022年には2101万人と36.9%に。同期間に正規は191万人減り、非正規は1100万人増と倍増した。報告書作成時の非正規は高齢者や主婦、学生らで「増えても雇用者の20~25%」と考えた。今のように非正規が家計の柱となる働き方を想定しておらず、「今ほど増えるとは思わなかった」と振り返る。

 

 報告書はもともと、正規の賃金を2~3割下げることを意図したが「はっきりとは書けなかった」と明かす。結果として「正規の賃金はほぼ横ばいだが、企業は非正規を増やして(全体の)平均賃金としては下がった」と分析。21年実績でみると、非正規の賃金は正規より3割以上低い。

 

 景気が好転すれば、経営者が非正規を正規として雇用する「復元」が起きるとも思っていた。しかし「経営者は(08年の)リーマン・ショック後に生き残ることしか考えなくなった。(13年からの)アベノミクスの金融緩和などで利益が増えても復元しようとはしなかった」と嘆く。

 

 「私が日経連でお付き合いした経営者はもっと人間を大事にしていた。今はお金だけためて人間を育てることを忘れてしまった」との実感がある。今年の春闘は物価急騰を受け、非正規も含めた賃上げ機運が経営者の間でも高まっている。「人間が大事、従業員が大事だという感覚を思い出してほしい」と願う。

 

◆賃金上がらないのは労使の共犯

 

 新時代の日本的経営をまとめた成瀬健生さんの話 景気が良くなった時、労働組合が非正規を正規に戻すようにもっと頑張ってほしいと思っていた。しかし、(非正規が増えることで正規が賃金水準を保ってきたため)連合は正規の賃金を下げる犠牲を払ってまで「非正規を何とかしろ」と経営側に言えなかったのではないか。労組を必要としている非正規の組織化もできていない。

 

 賃上げについては、労組は(1970年代の)オイルショックの時にインフレを沈静化させるために、経営への要求を抑えた。労組内に「経済成長しなければ賃金は上がらない」という考え方が残り、おとなしくなりすぎてしまった。賃金が上がらなくなったのは、経営側との共犯だと思う。

 

 なるせ・たけお 国際基督教大卒、1957年東京都民銀行に入行。63年に日本経営者団体連盟(現経団連)に入職した。調査部長を経て88年から2000年まで常務理事。報告書「新時代の日本的経営」を中心メンバーとして取りまとめた。

 

◆「懸念が現実に」元連合会長の高木剛さん

 

 「新時代の日本的経営」を労働組合はどう受け止め、対応したのか。発表時は産業別労組ゼンセン同盟(現UAゼンセン)の書記長で、後に連合会長に就いた高木剛さん(79)は「非正規が増える懸念が現実になってしまった」と振り返る。(渥美龍太、畑間香織)

 

 ―発表時の印象は。

 

 第一に思ったのは、これは「非正規のススメ」だと。これから非正規が増えるから、どう組合員にするかを真剣に考えないといかんと思った。製造業への派遣労働の解禁(2004年)に向けた引き金を引いた。人件費を抑えて国際競争力を維持しようという議論が当時から出ていたし、バブル崩壊金融危機などの不況も影響していった。

 

 ―実際に非正規は急激に増えていった。

 

 連合内に(非正規を支援する)非正規労働センターをつくるなど対応はしてきたが、非正規の増加は賃金が伸びない原因にもなった。連合会長になった後に(リーマン・ショック後に設けられた)日比谷公園年越し派遣村を訪れた時、テントで寝泊まりする様子を見て「やっぱりこうなったか」と実感した。報告書が出る前に止められなかったのか、との思いはある。

 

 ―出た後でも労組として抵抗はできなかったのか。

 役員に危機意識があまりなければ、止められない。製造業派遣の解禁については自分は反対したが、連合内に賛成論もあった。

 

 ―非正規の人たちは雇用者の4割近く、2000万人以上もいるのに、連合に期待していないように見える。

 連合の発信力の問題でもある。組合員化を真剣にやっていない労組もある。

 

 ―非正規のうち組合員は1割に満たない。これで春闘で賃金は上がるのか。

 これまで「物分かりの良い」労組が賃金の要求をセーブしてきた。賃上げで頑張れば、パートの人たちも組合員になることがプラスと思うだろう。物価高の今こそ、労組は会社と摩擦が起きても大きな賃上げができるか覚悟が問われる。

 

 たかぎ・つよし 東大卒、1967年旭化成工業(現旭化成)入社。88年労働組合ゼンセン同盟(現UAゼンセン)書記長、96年同会長。2005年から09年まで連合会長。

 

東京新聞より)

 

URL:https://www.tokyo-np.co.jp/article/233389

 

 「新時代の日本的経営」が発表された2年後の1997年に、その5年後まで私が勤めた企業では派遣社員の雇用を開始し(まだ派遣労働がポジティブリスト方式だった頃に派遣労働の対象を拡大した1996年の改正派遣法に対応したもの)、2001年頃には「成果主義」の賃金制度へと移行したが、いずれも労務費を下げる目的であることを指摘する社員もいた。この会社では裁量労働制など1993年頃から導入されていたから、その道では結構な「最先端」を行っていたのだ。これはもちろん皮肉として書いている。

 この東京記事が提起するような労働問題は2006〜09年頃に新自由主義批判が一時全盛になっていた頃にもさんざん議論されたはずだが、その間にも新自由主義政党である「みんなの党」が立ち上がったり、2008年に橋下徹大阪府知事になった後大阪維新の会日本維新の会が立ち上がるなど新自由主義側の反撃があった。その後自民党が政権瀬に返り咲くとまたぞろ歯止めが効かなくなった。野党陣営でもみんなの党は立民にほぼ吸収され、維新が野党第一党をうかがうまでに勢力を拡大し、現在の野党第一党である立憲民主党は旧希望の党泉健太が党代表にのし上がって維新に接近するなど反動化が大きく進んで今に至る。

 社会や政治にいったん惰性力が働いてしまうと、これほどまでにも止めにくくなってしまうのかと改めて思う。