kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

リアルの西山太吉氏夫人・啓子さんが「負けたくない」と言った対象は

このところ週末恒例にしている「西山事件」関連記事。TBSのドラマ『運命の人』で懸念したのは、第1話最後の予告編で告知された主人公の妻・弓成由里子を演じる松たか子の「あの女に負けたくないの」というセリフだった。このセリフは山崎豊子の原作には出てこない。フィクションである原作からもさらに離れて、「ひそかに情を通じ」を強調したドラマになるのかと、嫌な予感がした。

だが、下記の書籍で紹介されているリアルの西山太吉氏夫人・啓子(ひろこ)さんが書いた日記に「負けたくない」という文字が書かれているのを発見して驚いた。


ふたつの嘘 沖縄密約[1972-2010] (g2book)

ふたつの嘘 沖縄密約[1972-2010] (g2book)


但し、「あの女に」とは書かれていない。一審の裁判が始まった頃、1974年10月31日の日記に、啓子さんは子供たちに語りかけるように「ママは此の現実に背を向けたくはない。そして、負けたくない」と書いていた(本書66頁)。

著者の諸永裕司氏は朝日新聞記者から『AERA』、『週刊朝日』各編集部を経て『アサヒ・コム』(現朝日新聞デジタル)編集部所属とのこと。山崎豊子の『運命の人』が「事実を取材し、小説的に構築したフィクション」であるのに対し、こちらはノンフィクションである。

小説でも夫妻は離婚しないが、リアルでも同じだった。私はそこらへんの事情は全く知らず、そもそも山崎豊子の小説を読むまでは関心もなかった。北九州に移った元記者と妻が別居していたが、小説では最終巻で主人公が沖縄に移住し、そこで再会するのに対し、リアルでは長い別居期間の後、妻は北九州で元記者と再び同居するようになった。西山夫妻は、ともに死を考えたことがあるという。2人の日記を通じてそれが明かされる。

本のタイトルの「ふたつの嘘」とは、夫の嘘と国の嘘。前半は西山啓子さん、後半は2008年に起こされた沖縄返還密約文書開示請求の原告弁護団長代行をつとめる弁護士・小町谷育子さんが主役になっている。なお、この本には西山太吉氏や山崎豊子氏に対するかなり辛辣な表現が散見される他、自らが属する朝日新聞への辛口批評も見られ、かなり思い切った文章を書く人だなと思った。ただ、特に第I部を物語仕立てにした点には若干の違和感が残った。

この本も澤地久枝著の『密約』に多くを負っていることは特筆すべきだろう。ナベツネが絶賛し、密約文書開示請求訴訟の際の記者会見が行なわれた日に初めて面と向かって相対した西山元記者をも感激させたという澤地久枝とは、なんとすごい人なのかと思う。澤地氏の著書については、リアルのナベツネが「西山事件」で演じた役割(『サンデー毎日』2/19号のナベツネ「寄稿」より) - kojitakenの日記 で、ナベツネが『サンデー毎日』への寄稿で書いた賛辞を紹介した。当該記事を書いた時(2月12日)と現在を比べると、購入者が2人、リンクのクリック回数はおよそ90回増えている。もちろんそのすべてが私の記事経由でのアクセスだと言うつもりはないが。ここでも、当ダイアリーとしては3回目となる同書へのリンクを張っておく。


密約―外務省機密漏洩事件 (岩波現代文庫)

密約―外務省機密漏洩事件 (岩波現代文庫)