朝日新聞の情勢調査記事がようやく出た。他の報道機関の情勢調査と比較して、目立って自民党に甘く、野党、特に立民に厳しい予測だった。ことに枝野幸男が互角とか、小沢一郎が接戦とかいう調査結果には、悪いが笑ってしまった。枝野といえば、2014年の衆院選で、当時のバカ首相・安倍晋三が開票速報を見ながら「枝野は落ちないじゃないか」と怒鳴っていたことが思い出される。このエピソードからわかる通り、枝野はもともとそんなに無敵の強さを誇っているわけではない。小沢一郎も、今回は公示日に選挙区入りしたことが報じられていた。
詳細な情勢調査結果は「会員記事」だが、上記リンクの記事はそうではないので以下に引用する。
自民が単独過半数確保の勢い、立憲はほぼ横ばい 朝日情勢調査
2021年10月25日 18時00分
31日投開票の衆院選(定数465)について、朝日新聞社は23、24日、全国約38万人の有権者を対象に電話とインターネットによる調査を実施し、全国の取材網の情報も加えて、選挙戦中盤の情勢を探った。現時点では、①自民党は公示前の276議席より減る公算が大きいものの、単独で過半数(233議席)を大きく上回る勢い②立憲民主党は比例区で勢いがなく、公示前の109議席からほぼ横ばい――などの情勢になっている。
選挙区はインターネット調査で、比例区は電話調査で情勢を探った。調査時点で投票態度を明らかにしていない人が、選挙区は4割、比例区は3割おり、今後、情勢が大きく変わる可能性もある。
自民は、選挙区では公示前の210議席に届かないものの、161の選挙区で優位に立ち、190議席に迫る勢いをみせている。比例区は堅調で、公示前の66議席を上回り、70議席をうかがう。
自民は、政権を奪還した2012年の衆院選以降、国会を安定的に運営できる絶対安定多数(261議席)を確保してきた。接戦となっている74の選挙区の勝敗次第では、今回もこれを獲得できる。
公明党は、公示前の29議席は維持しそうな勢い。選挙区では、北海道10区と東京12区で接戦となっている。
立憲は、選挙区では公示前の48議席を上回る公算が大きい。競り合っている65の選挙区が、議席を上積みできるかどうかの焦点。枝野幸男代表(埼玉5区)も自民前職と接戦となっている。一方、比例区は勢いに欠け、公示前の61議席を10議席以上、下回りそうだ。
日本維新の会は、公示前の11議席から3倍近くに増える勢い。選挙区は大阪府内を中心に10選挙区でリード。比例区は地盤の近畿以外でも、東京や南関東で複数議席獲得を視野に入れている。
共産党は、選挙区で議席を維持している沖縄1区で接戦。比例区で議席を積み上げ、全体として公示前の12議席を上回る可能性がある。
国民民主党は、4選挙区で優勢で、比例区と合わせ、公示前の8議席と同程度になる見込み。
れいわ新選組は比例区東京で議席獲得をうかがう。社民党は選挙区、比例区ともに1議席を確保できるかどうか。
「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」は、厳しい情勢だ。
◇
調査方法 23、24の両日に実施。電話調査は、コンピューターで無作為に作成した番号に調査員が電話をかけるRDD方式で、固定電話、携帯電話あわせて2万5595人から有効回答を得た。インターネット調査は、調査会社4社に委託し、各社の登録モニターを対象に調査した。全国で計35万3868件の有効回答を得た。小選挙区はネット調査から当落を予測し、比例区は、電話調査から予測した。
(朝日新聞デジタルより)
政権批判側の何人かの反応を見たが、感情的に噴き上がっている人は思いの外少なかった。まあこの程度の記事で感情的に噴き上がるようではインフルエンサー失格だろう。
一読して(ある程度以上の見識がある人なら)誰もが注目したのは、記事の末尾にある調査方法だろう。今回朝日はインターネット調査を取り入れ、調査会社4社に外注した。小選挙区の予測はそのインターネットによったという。
この点への批判が集中するのは目に見えていた。たとえば、若き選挙クラスタの方が発信したらしい下記のツイートがその例だ。
朝日新聞やっちゃいましたね。
— きょんきょん/衆院選2021 (@Kyonkyon_senkyo) 2021年10月25日
読売・日経の調査も共同・毎日の調査も、仮にオートコールであっても携帯固定合わせて17~19万件のサンプルを取ってます。
朝日は比例こそまともにやってますがサンプル数は2万5千件と圧倒的に少ない上に、小選挙区は登録モニターによるインターネット調査。論外。
「登録モニターによる」調査は論外というが、テレビの視聴率調査だって登録モニターによるサンプリング調査ではないだろうか。調査会社は各社とも、無作為抽出に近づけるノウハウを持っているはずだ。サンプル数より調査方法による偏りの方が問題だ。もちろん問題は各社が採用しているその調査方法の精度と、インターネット調査という実績のない調査方法そのものではあることはいうまでもないが。
ここで忘れないうちに書いておこうと思うが、朝日が調査方法を変えた最大の理由は、昨年世論調査の方法を変えた毎日と同様、経営が傾いたためのコスト削減が最大の理由だろう。コストを下げつつ調査精度を下げないため、現場は必死の努力をしているに違いない。断言できるのは、間違っても恣意的な調査などではないことだ。たとえば私は新聞の情勢調査能力を評価するために、既に読売新聞の現物を買った。朝日も現物を買う。そして両者を選挙結果と突き合わせて比較し評価する。個人的な感情としては、子会社のプロ野球球団ともども読売は大嫌いだが、それと評価とは全く別だ。たとえば毎日の調査はあまりにも信頼性が低いと思っているので、今回の比較検討の対象から外している。朝日だって変に恣意的な調査を出して大外れしたら信用を失って経営がさらに傾くことになるから、そんなことは絶対にやらない。当たり前のことだろう。
菅原琢教授によると、他の調査機関(日経リサーチ系=日経・読売=と共同通信系=毎日や地方紙など=)もSMS(ショートメッセージサービス)を取り入れるなど、前例のない方法で調査を行っているとのこと。
とにかくこういう件では、というよりどんな案件であっても専門家の意見を参照するに限る。そこで、菅原教授のツイートからピックアップする。
朝日の情勢調査、選挙区をネットのみで行っていますが、毎日の都議選情勢調査の失敗を見ていますし、「予習」も行い、他紙の情勢調査も確認したうえで出しているので、大きくは外れないという自信はあるのだと思いますよ。
— 菅原 琢(SUGAWARA, Taku) (@sugawarataku) 2021年10月25日
他紙と傾向が異なることは当然訝しがられるのですが、今回、日経・読売も毎日・共同も、自動音声+SMSで行っています(日経は調査員架電も含む模様)。実はいずれの陣営も前例の無い方法で選挙情勢調査を行っているのです。
— 菅原 琢(SUGAWARA, Taku) (@sugawarataku) 2021年10月25日
予測が当たるかどうかは、新しい調査手法を受けての予測部分の洗練度の勝負になってくると思いますが、前例がないことに加えて難しい選挙区が増えているので、読売新聞のように緩く予測して接戦扱いを増やすのが適切のように思いますね。
— 菅原 琢(SUGAWARA, Taku) (@sugawarataku) 2021年10月25日
ちなみに、朝日新聞はRDD法の電話調査を導入する際、3年ほど裏で試し、00年衆院選で選挙区を半分に分けて、片方を(選挙人名簿から対象者を抽出して電話帳で電話番号を調べる)従来型の電話調査、片方をRDDで行うかたちでテストし、01年4月から定期調査に導入しています。
— 菅原 琢(SUGAWARA, Taku) (@sugawarataku) 2021年10月25日
インターネット調査による衆院選の情勢予測の難しさはサンプルを集めるところにあって、登録モニターの数の少なさと回収率の低さから、特に田舎のほうでは1選挙区300人集めるのも大変だと聞いたことがあります。「調査会社4社に委託」はその辺をカバーするためだと思います。
— 菅原 琢(SUGAWARA, Taku) (@sugawarataku) 2021年10月25日
予測精度が如実に出る比例区は、今回選挙の情勢報道の混沌をよく示していると思います。従来型調査の朝日は読売に近く与党強め、選挙区で読売よりも与党強めに出している毎日はかなり自民弱めです。
— 菅原 琢(SUGAWARA, Taku) (@sugawarataku) 2021年10月25日
朝日https://t.co/pXVaVCAzJy
毎日https://t.co/YP4fc4pWW2
読売https://t.co/XFOCNJhxFB
自動応答電話調査は高齢者、政党支持層が厚く共産党支持層などが強めに出るし、ネット調査は無党派の行動を読めずで、情勢報道はなかなか大変ですね。支持層を固定できない政党の頼りなさが根本にあるので、メディアだけを叩く問題ではない。
— 菅原 琢(SUGAWARA, Taku) (@sugawarataku) 2021年10月25日
予測精度の問題は、政党支持の流動性(支持なしの増加)の影響がまず大きく、人々のライフスタイル(固定電話離れ、架電率、回答率の影響)、選挙期間の短さなども大きく影響しており、コストはあくまでそれをカバーするためのもの。言い換えると、コストを掛けても予測精度は上がりにくくなっている。
— 菅原 琢(SUGAWARA, Taku) (@sugawarataku) 2021年10月25日
結果はもう数日後には出るんだから、何を騒いでいるのかと思う。
なお、私自身は政党は仲間意識などではなく政策で選ぶので、最近、党の経済政策を元みんなの党の江田憲司に任せているという立憲民主党は、全く信用ならない政党とみなして著しく評価を下げている。私が何よりも重視する経済政策で現在のあり方を続けているうちは、選挙区で立民公認の候補者に投票することはあっても*1、比例では立民には入れない。もちろん民民にも某組にも入れないが、民民よりも某組よりも新自由主義に引っ張られやすい体質を立民は持っている。だから、朝日以外が出してきた立民の比例の予想議席数には、えっ、そんなに立民が獲るのかと奇異の念を抱いたくらいだ。むしろ立民が比例で解散前の議席数を減らすという朝日の予想の方が、私の肌感覚と合っている。もっともこれは単なる個人の感想なので、信頼性はゼロに等しいが。
そうはいっても、現在の政治状況においては、コロナ対応で散々な目に遭わせてくれた自民党を何が何でも政権の座から引きずり下ろしたい。それが非常に強い情念になっている。これが私の投票行動を支配する行動原理だ。
そんな私がもっとも強く共感するのは、菅原教授もリツイートしている下記黒川滋(くろかわしげる)氏のツイートだ。
情勢調査がまた選挙を盛り上げる効果はあるとは思いますが、2005年からの4回の総選挙の選挙区情勢報道は、結果が見えすぎていて、民主主義の諦めを植え付けられたと思います。
— くろかわしげる (@kurokawashigeru) 2021年10月25日
今回の情勢調査のまちまちの結果を歓迎しています。 https://t.co/Gyjr4xRcM4
本当にその通りだ。但し、「2005年からの4回」は「5回」(2005, 2009, 2012, 2014, 2017)の誤記。毎回のように結果が見えすぎる選挙になっているのは小選挙区制のせいだから、選挙制度を絶対に改めなければならない。