kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

矢田稚子の内閣補佐官任命人事を「自民党がどれだけ高い政治的能力を持っているのか、これだけの妙手を放つと、改めて感心します」と肯定的な表現で評した中北浩爾教授のコメントは微温的に過ぎるのではないか

 連合と国民民主党(民民)と自民党との絡みだけれど、当事者たちが言わない、つまり私たちが知らない事実がいろいろあるものだから、状況証拠から推測するほかない。だから、たとえば昨日取り上げたTBSの下記報道についた政治学者の中北浩爾氏のヤフコメを見ても、わからないことはわからないと書かれている。

 

news.yahoo.co.jp

 

中北浩爾

政治学者/中央大学法学部教授

 

この記事で明らかになったのは、矢田稚子氏がパナ労組や電機連合の反対を押し切って首相補佐官に就任したということ。つまり、これまで議員としての活動を支えてくれた仲間を裏切って、「補佐官」という岸田政権からぶら下げられた餌に食いついたということ。

 

矢田氏が補佐官に就任すれば、子ども政策が前進すると歓迎する向きがありましたが、「賃金・雇用担当」です。それこそ、国民民主党が重視し、連合が関心を持つ領域。矢田氏は周囲に対して「政局とは無関係」と言っているようですが、誰もそんなこと信じるはずがないでしょう。

 

この記事はよくできていますが、いくつか謎が残ります。一つは、国民民主党の関与榛葉幹事長が9月8日の記者会見で、連合の芳野会長を挑発していただけに、掘り下げが欲しい。もう一つは、矢田氏が以前、9月末までパナ労組の役員の立場が続くとツイートしていたこととの関係。パナ労組は本当に知らなかったのか。

 

URL: https://news.yahoo.co.jp/profile/commentator/nakakitakoji/comments/a36b0a4e-31ed-46b3-a805-ac89b7045c62

 

 TBSの記事には、玉木雄一郎が「途中から知っていた」と言ったと書かれている。つまり容認していたことまでは玉木も認めている。積極的な関与があったとまでは認めていないが、玉木や榛葉賀津也の言動から推して、積極的な関与があったとしても不思議はない。しかし役者が一枚上手なのはやはり自民党であって、少し前にマストドンで政治おじいちゃんお化け氏が指摘していた通り、自民党の手口は小沢一郎の旧自由党をブリッジとして公明党と連立を組んだ時と同じだ。つまり、20世紀末の時点で既に歴史的役割を終えていた自民党が延命のための決定打として繰り出したのが公明党との連立であり、小沢は自民党のダシに使われただけだった。その後も「小泉劇場」や「政権交代」などの波乱はあったものの、自民党は2012年末から2021年秋までの安倍・菅時代というとんでもない反動時代を謳歌したあと、再び歴史的役割を終えて空洞(=世襲議員たちだけでは何もできない無能集団)の限界を露呈しているのが現在の岸田文雄内閣だが、それでも権力を維持するための悪知恵だけはどこにも負けない。その自民党が繰り出したのが玉木雄一郎の民民をブリッジとした連合の取り込みという次なる野望だ。

 これが本格的に機能し始めたら、日本は支配者階級が大企業正社員層というアッパーミドルを強力な味方につけて、それ以下の階級との巨大な断層を作るという救い難い国になる。いや現在でもそれに近い国になっているが、これ以上の自民党政権の延命など許されない。しかしそんな時代なのに立民や共産の支持層が内向きの組織防衛にかまけているのが現状だから(両党とも現在の執行部では新しい支持者を取り込むことはきわめて困難だと思う)、現在の日本の政局は、少なくとも私が関心を持って見てきた1970年代から現在までの期間ではもっとも絶望的な状況になっている。

 話がそれたが、中北氏のコメントの最後にある「パナ労組は本当に知らなかったのか」については、知っていた可能性の方が強いだろう。ただ、連合全部が電機や電力や自動車のような右寄りの労組ばかりではないために他の労組の多くから強い反発を受けるのを恐れて、聞いていなかったかのように言っているだけだと私は想像している。

 ところで、この記事のコメントではないが、別の記事についた中北氏のコメントにも首を傾げざるを得ないものがあった。読んだ時にはブログに取り上げ損ねてしまったが、良い機会なので本記事で紹介する。

 それは時事通信の下記記事についた中北氏のコメントだが、まずその時事通信の記事を引用する。

 

news.yahoo.co.jp

 

「自公国」連立へ首相布石 補佐官に異例の野党出身者 岸田政権

9/16(土) 7:12配信

 

 岸田文雄首相は15日、国民民主党副代表を務めた矢田稚子参院議員を首相補佐官に抜てきした。

 

 野党出身者の補佐官起用は極めて異例で、自民、公明両党の連立政権に国民を加える「自公国」連立へ布石を打ったとの見方が与野党に広がる。ただ、国民を支持する連合は連立に反対で、構想の先行きは不透明だ。

 

 「適材適所の考え方で首相が判断した。これ以上申し上げることは差し控えたい」。松野博一官房長官は15日の記者会見で、今回の人事は自公国連立への布石かと問われると、こう述べるにとどめた。首相官邸で同じ質問を記者団から受けた矢田氏も「私は関知していない」と語った。

 

 自公国連立構想は菅政権時代に自民内の一部で浮上。昨年12月に機運が高まったものの、国民内で慎重派の意見が強まり、暗礁に乗り上げた。しかし、2日の国民代表選で与党寄りの姿勢が目立つ玉木雄一郎代表が再選されると自民内で再燃。13日の内閣改造では国民幹部を入閣させる案も取り沙汰された。

 

 自民内で検討されているのは、「政策協議」「閣外協力」などと段階を追って国民との間合いを詰める案だ。矢田氏は連合に加盟する電機連合の元組織内議員で、関係者によると、連合の芳野友子会長と良好な関係にある。自民関係者は「今回の人事は連合とのパイプづくりが狙いだ」と説明。閣僚経験者は「将来の連立に向けた布石だ」と言い切った。

 

 首相は14日、公明党山口那津男代表に電話し、「矢田氏を補佐官に起用したい。ご承知おきください」とわざわざ伝えた。公明は国民の連立参加には慎重とみられ、修復の途上にある自公関係が再び悪化しないよう配慮したようだ。

 

 国民の反応は割れている。玉木氏は15日、東京都内で記者団に、矢田氏は8日に国民顧問を退任したため補佐官就任は知らなかったとしつつ、「現場の声を届けてくれる」と期待感を表明。一方、連立慎重派の一人は「国民幹部が裏で動いたのではないか」と疑心暗鬼に陥っている。

 

 立憲民主党は反発している。泉健太代表は15日、都内で記者団に「違和感がある。政治的人事と言われても仕方がない」と批判した。立民支持と国民支持の労組を抱える連合の関係者は「連合が壊れる」と悲鳴を上げた。

 

時事通信より)

 

URL: https://news.yahoo.co.jp/articles/60b052d50a7adf0ea9e22b8879bba86ad999217d

 

 少し余計なことを書いておくと、記事中に「国民の反応は割れている」という箇所があるが、「国民」が日本国民を指すのか国民民主党党内を指すのが意味が取りづらい。

連立慎重派の一人は「国民幹部が裏で動いたのではないか」と疑心暗鬼に陥っている。

と書かれており、これはおそらく国民民主党(民民)の国会議員のコメントではないかと推測されるがはっきりしない。だから弊ブログでは国民民主党の略称を断固として「民民」の表記で統一する次第。立憲民主党は「立民」、国民民主党は「民民」の略称で良いのだ。

 上記記事に、中北氏は下記のコメントをつけた。

 

中北浩爾

政治学者/中央大学法学部教授

 

自民党がどれだけ高い政治的能力を持っているのか、これだけの妙手を放つと、改めて感心します。その自民党からすれば、連合に手を突っ込むなど、赤子の手をひねるも同然。最後に「連合が壊れる」と連合関係者が悲鳴を上げていると書かれていますが、立憲民主党と国民民主党に分裂している状態を手をこまねいて見てきた連合は、前組織内議員の矢田氏が自民党の軍門に下っても何もできず。もはや民間人だからと心の平静を精一杯、保っているだけです。

 

もちろん、これから一足飛びに国民民主党が連合の反対を押し切って連立入りすることはないでしょうが、将来への布石であることは、記事にあるように衆目が一致しています。また、自民党が矢田氏を次の参院選の全国比例に擁立する可能性もあります。その場合、電機連合は自身の組織内候補の票を奪われてしまいます。矢田氏の補佐官就任で連合や電機連合が受ける組織的な打撃は、決して小さくないでしょう。

 

URL: https://news.yahoo.co.jp/profile/commentator/nakakitakoji/comments/c63c9a86-fcd3-44d1-8fbc-75753172c6e6

 

 上記コメントは全体としては、さすがは政治学者だけのことはあって「いえてる」と思うのだが、私がどうしても引っ掛かるのはコメントの書き出しの部分だ。

 「自民党がどれだけ高い政治的能力を持っているのか」とか「これだけの妙手を放つと、改めて感心します」などという、一見肯定的な評価を与えているかのように見える表現に強い反発を感じたのだ。

 これは、一口に「政治的能力」とは言っても、その一側面に過ぎない権力抗争における戦略や戦術を立てる能力にすぎない。自民党とは権力の維持に特化した中身ががらんどうの世襲貴族の集団だから、そりゃ権力争いの戦略や戦術には長けているだろう。

 しかし政治には、国民生活に資する政策を立案し実施するという側面もある。その国に住む人間にとっては何よりも求めたいのはこちらの方だが、この方面の能力や実績を座標軸にとると、無能な世襲貴族が形成する集団の自民党はマイナスの側に振り切れた位置づけをするほかない。だから私は自民党を日本の政党の中で政策担当能力が一番低い政党だと断定している。

 立民の現代表・泉健太はそんな自民党の政治に対する「提案型野党」路線、つまり自民党政治を微修正するだけの立場を掲げて昨年の参院選を戦ったからそれまで得ていた票の2〜4割を流出されたのだ。

 そういったことを思えば、中北教授のコメントでの言葉遣いはあまりにも微温的に過ぎると思ったのだった。