kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

日韓関係では立憲民主党(枝野幸男)も山本元号党(山本太郎)も安倍晋三政権の補完勢力だ

 最近苦々しく思うこと。

 

 日韓関係では、立憲民主党枝野幸男)も山本元号党(山本太郎)もともに安倍晋三の味方というか補完勢力だ。世論の8割が韓国叩きに同調しているから、ともに悪い意味でのポピュリズム政党であると私が認識しているところの二人(両党)の欠点がもろに露呈している。枝野は考えは安倍政権と同じだと公言しているし、山本は枝野ほど露骨にはやらないが沈黙し、外相・河野太郎を批判しない*1。二人(両党)はともに、韓国叩きに同調している8割の世論に迎合している。

 山本太郎の場合は、もと副代表を務めていた自由党に、極右政党・日本のこころから転じてきた鈴木麻理子を抱えていたことや、山本自身が熱心に応援していた三宅洋平がまぎれもない右翼民族主義者であることなど、小沢系の政党や山本自身がもともと右翼勢力とのつながりがあったことも要因に挙げられる。さらにいえば、「小沢信者」(オザシン)やヤマシンには一定の「嫌韓」根性の持ち主がいる。最近は猫を被っているようだが、兵頭正俊など実にひどいレイシストだ。一部の「山本太郎信者」(ヤマシン)は、枝野が日韓問題で安倍晋三にすり寄っているから山本党にリベラルの支持が移るだろうなどと言っているが、立民と山本党は所詮は小沢・鳩山系を含む「旧民主・民進系」に括られる「同じ穴の狢」でしかない。そもそも山本党の党名は元号からとられており、それだけでも論外だ。

 

 枝野・山本の二人、あるいは立民・山本党の両党とも「権力を批判する言説の絶え果てた『崩壊の時代』」を終わらせることができる政治家あるいは政党ではない。そう断定せざるを得ない。

*1:山本太郎はあいちトリエンナーレの一件に対する反応もいたって鈍かった。また、この一件で批判されたことをぼやいた河村たかしを小沢系の沖縄県知事玉城デニーが慰めたというとんでもない一幕が沖縄紙が報じたとのことだ。

『週刊ポスト』の嫌韓特集の根っこは安倍晋三のメディア支配

 『週刊ポスト』の嫌韓特集が突如批判されたが、この件もまたこの国の「権力を批判する言説の絶え果てた『崩壊の時代』」の一つだ。

 

 突如批判されて『ポスト』編集部は泡を食っているようだが、『ポスト』を批判する正論を発している陣営も、なかなか安倍政権批判にまでは向かない。いや、ポストの嫌韓特集を批判する以上、当然安倍政権批判側でもあるはずなのだが、問題の根っこが安倍晋三によるメディア支配と、それと対をなす業界人の安倍晋三への忖度であることに対する批判が弱いように思われる。

 思い出すべきは、2015年に安倍政権批判の特集を毎週のように展開していた『週刊ポスト』の編集長の首が飛んだことだろう。

 私はリテラが大嫌いなので最近はほとんど引用しないのだが*1あそこに書くライターたちは業界情報には詳しいので、節を曲げて以下に引用する。

 

lite-ra.com

 

 しかし、小学館の関係者によると、「週刊ポスト」の韓国ヘイト特集は現場レベルの問題ではないらしい。

「鈴木亮介編集長はただのイエスマンで、ヘイト思想の持ち主じゃない。あれは、ポスト・セブン局担当の常務取締役で『ポスト』を仕切っている秋山(修一郎)さんを忖度したものでしょう。秋山さんは普段から会議でも、今回の内容のような韓国ヘイトをやたら口にしていて、以前にも管轄の『ポスト』や『女性セブン』に似たような企画をやらせたことがある。トップ直々の企画だとしたら、このまま通りいっぺんの謝罪で終わらせるかもしれません」

「ポスト」はいまのところ、『BuzzFeed News』や『ハフポスト』の取材に対し「混迷する日韓関係について様々な観点からシミュレーションしたもの」「韓国で発表・報道された論文を基にしたものとはいえ、誤解を広めかねず、配慮に欠けておりました」などと典型的な“謝罪になってない謝罪”コメントを出しただけだが、このヘイト企画が上層部直々のものであるとすれば、この木で鼻をくくったような対応も上層部の意向を反映したものなのだろう。

 

出典:https://lite-ra.com/2019/09/post-4941_4.html

 

 なるほどねえ。安倍晋三は秋山修一郎という小学館の常務を手なずけたわけだ。

 1970年代や80年代にはポストの誌面は今とは全然違ったと指摘する向きもあるが、何もそんな大昔に遡らなくとも、2014年から2015年にかけての一時期に安倍政権批判を展開していた時期もあった*2 *3。その編集長が更迭された時にもリテラが記事にしているので、節を曲げついでにリンクを張っておく。

 

lite-ra.com

 

 安倍晋三は政権を批判する言説を根絶やしにしようとしているわけだ。今回『週刊ポスト』が批判された嫌韓特集は、その安倍晋三の政権の本音を醜くむき出しにしたものであるといえる。

 安倍晋三の政権が倒れない限り、問題の根を断つことはできない。いや、安倍政権を倒しただけでも問題は解決できないのだが、それは安倍政権が倒れることが「ヘイト言説根絶」十分条件ではないという意味であって、少なくとも安倍政権が倒れる(できれば政権批判側が安倍晋三を打倒することが望ましいが、現時点では勝手に倒れる可能性の方がはるかに高い)ことは間違いなく必要条件だ。

*1:なお、「リベラル」の間でのリテラの人気は最近かなりかげってきた印象を持っている。

*2:もっと前の第1次安倍内閣時代(2006〜07年)には、『週刊ポスト』は『週刊現代』とともに毎週のように安倍政権を批判する特集を組んでいた。そういえば最近は『週刊現代』もさっぱり安倍政権を批判しなくなったし、「嫌韓」の記事が載ることも少なくない。

*3:もっとも、2015年に更迭された編集長が2014年に編集長になる前の『週刊ポスト』は、安倍政権(第2次安倍内閣時代)に迎合していた。

小池百合子、今年も関東大震災の朝鮮人虐殺追悼式典に追悼文を送らず(呆)

 小池百合子は今年も追悼文を送らなかった。朝日新聞デジタルの「有料記事」は末尾の部分以外は無料で読める。

 

https://www.asahi.com/articles/ASM914GYYM91UTIL00J.html

 

小池知事、今年も追悼文送らず 関東大震災朝鮮人虐殺

軽部理人 

 

 関東大震災から96年を迎えた1日、震災の混乱の中で虐殺された朝鮮人犠牲者らを追悼する式典が東京都墨田区横網町公園で開かれ、約700人(主催者発表)が参列した。小池百合子都知事は3年連続で追悼文の送付を見送った。主催者からは「事実の風化につながる」と批判の声が上がった。

 政府の中央防災会議が2009年までにまとめた報告書によると、震災後に「朝鮮人が略奪や放火をした」などの流言が広まり、各地の「自警団」などが朝鮮人らを殺害する事件が多発した。1千~数千人が殺されたと推計し、「虐殺という表現が妥当する例が多かった」と記している。

 式典は、虐殺された朝鮮人らを追悼するために市民団体などが毎年開催。今年の式典では、河野洋平・元衆院議長が「歴史を銘記して語り伝えることによって、民族差別とは無縁の社会を作っていきたい」とするメッセージを寄せた。

 歴代の都知事は式典に追悼文を寄せており、小池知事も就任直後の16年は送付した。だが翌17年からは「震災の犠牲者全てを対象とする法要で哀悼の意を示している」として、取りやめた。小池知事は虐殺についても「様々な見方がある」とあいまいな言い方を続けており、式典の実行委員会が8月下旬に抗議声明を発表していた。

 江戸川区の会社員男性(45)…

 

朝日新聞デジタルより)

 

 小池が朝鮮人虐殺の犠牲者らを追悼する式典に追悼文を送るのを止めたのは2017年だったことに留意されたい。つまり、小池が同年の衆院選で「排除」をやらかす前のことだ。この日記では当然これを取り上げて小池を批判したと記憶するが、当時は「民進党と小池知事の連携に『ワクワク』する」連中が「リベラル」の主流だった。彼らは、石原慎太郎でさえやらなかった追悼文送付の「見送り」を小池がやったことを、見て見ぬふりをした。私はそんな態度をとらず、一貫して小池に批判の目を向けてきたから、同年8月2日付のこの日記で、小池が「排除」をやらかすことを的確に予測する記事を書くことができた。

 以上の例から思うに、現在日本の「リベラル」の間で流布している、「韓国の人たちが批判しているのは『安倍政権』であって『日本』ではない」などとする言説は、あまりに自分たちに甘過ぎるのではないかと言わざるを得ない。現に日韓関係に関する野党第一党の立場は「安倍政権と同じ」らしいし、毎日新聞は平然と「ヘイト川柳」を紙面に載せたらしい。テレビは連日「嫌韓」を煽り続けているし、それを批判する言説を口にした青木理でさえ「どっちもどっち」論に立った上での日本のメディアに対する批判に過ぎないという腰の引けた態度をとっている。日本の言論人の中ではまだしも良心的な言説を唱える青木理でさえこのありさまなのだ。

 ましてや、東国原英夫だの武田邦彦だのといったもともとの極右(もっとも小池百合子ももともとの極右だが)たちがとんでもない暴言を口にしたことは、全く驚くに当たらない。ここでは、脱原発の言説が流行していた頃に、特に「小沢信者」に応援されていた武田邦彦*1の暴言を、朝日新聞デジタルから引用する。

 

https://www.asahi.com/articles/ASM8Z6V0SM8ZOIPE02J.html

 

ゴゴスマ、出演者発言を謝罪 「ヘイト容認できない」

 
  CBCテレビ(名古屋市)は30日、生放送の情報番組「ゴゴスマ」内で出演者が日韓関係に関して発言した内容について、番組内で謝罪し

 問題の発言があったのは27日の日韓関係についての特集コーナー。韓国で日本人女性が韓国人男性に髪をつかまれるなどした映像が拡散したことを受け、中部大学武田邦彦特任教授が「路上で日本人の女性観光客を襲うなんていうのは、世界で韓国しかありませんよ」「日本男子も韓国女性が入ってきたら暴行しないといかん」などと発言。共演者から「それは言いすぎ」などといさめられていた。30日は司会の石井亮次アナウンサーが番組冒頭で「ヘイト(スピーチ)や犯罪の助長を容認することはできません。不快な思いをされた方々におわびいたします」と頭を下げた。

 CBCによると、武田教授は火曜レギュラー。次回以降の出演予定は決まっていないという。

 

朝日新聞デジタルより)

 

 私は、先週読んだ下記の本の中で武田邦彦の言説が肯定的に引用された実例を目にして改めてうんざりさせられた。
 

www.chikumashobo.co.jp

 

 その文章は山本太郎の「著書」に出てくる*2。但し、どう見ても武田邦彦の文章を肯定邸に引用する一節を含むこの本を実際に書いたのは山本太郎ではない。木村元彦である。これは典型的な「ゴーストライター本」なのだ。単行本初出は2012年の集英社で、まだ山本太郎衆院選に初挑戦して落選するより前に刊行されている。だから本の中で山本太郎は政治家になることを否定しているし(但し2016年に出版されたこの文庫本には、政治家になったあとの山本の「思い」も記されている)、俳優の本だからあからさまなゴーストライター本の体裁で気軽に出版されたのだろう。

 なお、この本に書かれた山本太郎の「原点」は無論「脱原発」だが、最近国民民主党の電力労組系議員に配慮するかのような発言を山本はしていたから、おいおい山本太郎よ、原点を忘れるなよ、と改めて突っ込みを入れたくなったことも付記しておく。

*1:武田邦彦が「小沢信者」たちに応援されたのは、脱原発の言説というよりは、それ以前から武田が唱えていた地球温暖化否定論による。アメリカではトランプを含む共和党とその支持者たちに広く支持されている地球温暖化否定論を、なぜか「小沢信者」たちは大いに好んでいたのだ。この傾向は今でも「山本太郎信者」(ヤマシン)たちに引き継がれている。

*2:面倒臭いので当該の箇所を示すのは省略する。興味のおありの方は直接『山本太郎 闘いの原点』をお読みいただきたい。それは必ず載っているから。

池江璃花子となべおさみ

 池江璃花子は東京都江戸川区の出身で、そのことは3年ほど前に同区の中央図書館で知った。10年近く前以来東京東部の住民になっている私は、それ以来同選手に、応援とまではいかないが関心を持ってきた。

 

sumita-m.hatenadiary.com

 

 以下引用する。

 

サイゾーウーマン編集部「池江璃花子選手となべおさみ、密会報道!  “高額”民間療法を怪しむ「池江関係者」のリーク!?」https://www.cyzowoman.com/2019/08/post_248043_1.html

 

曰く、


白血病を公表している競泳女子・池江璃花子選手*1とタレント・なべおさみの“奇怪なる巡り合い”を、8月29日発売の「週刊新潮」(新潮社)が報じている。記事は、池江選手がなべの自宅を訪れるシーンや、一緒に東京・銀座へ向かう姿など、複数の写真を交えながら、なべが行っているという「民間療法」の存在、またそれに疑問を投げかける内容となっている。池江選手、なべの2人とも、取材に応じていないが、この情報源となっているのは池江選手側の関係者とみられているという。

 

 記事によると、なべは自らの“気”や“パワー”を用いた施術によって、各界著名人の命を救ったことがあるそうだ。なべと池江選手の母親が知人を介して面識を持ち、池江選手はなべに対して、多額の報酬を支払い相談に乗ってもらっているという。

 

なべおさみがそういう「パワー」を持っているということは知らなかった。なべおさみが自らの「気」だけでやかんのお湯を沸かすという番組を企画するTV局はないのか。
ところで、記事の後半に「藁にもすがる思い」という表現が出てくるけれど、こういう表現というのは妥当なのだろうか。水泳選手が溺れてしまってはシャレにならないということはあるのだけれど、(少なくとも主観的には)病状がかなり厳しいということを外部にリークしてしまっているのでは? 今「少なくとも主観的には」と書いたのは、客観的に見て病状はそれほど酷くないのに、なべおさみ側の人たちが実際以上にネガティヴなことを吹き込んだんじゃないかと勝手に推測したからだ。そうすれば、自ずと「藁にもすがる思い」を抱くようになる。

 

出典:https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/08/31/235103

 

 私も新聞広告で『週刊新潮』の記事の見出しを見た時、「病状がかなり厳し」そうだなと思ったが、『週刊新潮』の記事を立ち読みし、掲載されている池江選手となべおさみのツーショットの写真を見た時、

客観的に見て病状はそれほど酷くないのに、なべおさみ側の人たちが実際以上にネガティヴなことを吹き込んだんじゃないか

と強く疑うとともに、なべに対して腹を立てていたところだった。

 ところで、池江選手の白血病については、急性骨髄性なのか急性リンパ性なのか慢性なのかその他なのか、あるいは完全寛解に至って「地固め治療」に入っている段階なのか、それとも完全寛解に至っていないのかなど、一切の情報がシャットアウトされている。そんなところにもってきて『週刊新潮』の思わせぶりな記事が出たものだから、「これは最初から白血病の中でも難治性と診断され、そのために詳細な情報を公表できずにいるのではないか」と気を揉んでいた。

 しかし、『週刊新潮』の記事を粗っぽく立ち読みした(細かくは読んでいない)結果、意見を変えた。

 池江選手の回復を願うとともに、上記の疑いが事実であれば、いや本当に病状が深刻であるならなおさら、なべは余計なことを止めるべきだと強く思う。

 他の癌であっても、ダメ元の免疫療法である「民間療法」は効果がほとんど期待できない上、発症した時には既に他の癌でいう「ステージIV」に該当するといわれる白血病の場合、免疫療法だけに頼る「民間療法」など絶対に効果がないことは医学的に明らかだからだ。

ヒトラー暗殺計画立案に加わって処刑されたディートリヒ・ボンヘッファーと村上春樹と浦沢直樹と

 醍醐聡氏のツイートより。

 

 

 

 

 

 

 一連のツイートに「ボンフェッハー」と表記されているが、綴りはDeitrich Bonhoeffer*1なので普通は「(ディートリヒ*2・)ボンヘッファー」と表記される*3。リンクされた橋本裕明氏*4の論文にも「ボンヘッファー」と記載されている。

  醍醐氏は、橋本氏の論文を要約するツイートも発している。

 

 

 

 

 

 ボンヘッファーヒトラー暗殺計画に加わった(失敗に終わった実行には加わらなかった)ことは2002年に読んだ最上敏樹『人道的介入』(岩波新書)で知った。

 

www.iwanami.co.jp

 

 押し入れから本を引っ張り出して確認すると、第1章「人道的介入とは何か」の4〜6頁にボンヘッファーが言及されていて、読者に強い印象を与える。以下、最上氏の著書から引用する。

 

 ユダヤ人の権利剥奪に対する教会の義務は、ボンヘッファーの考えるところでは、第一に国家に自己の責任を目覚めさせること、第二に国家の政策の犠牲になった人々を救うこと、第三に「車輪の下敷きになった犠牲者を救うだけでなく、みずから車輪の下に身を投じて、車そのものを阻止すること」であるボンヘッファー・1968、宮田・1995)。しかし彼は、車輪の下に身を投じはしたものの、車を阻止することはなく、ヒトラー自決とドイツ降伏のわずかひと月前に処刑されたのだった。

 

最上敏樹『人道的介入』(岩波新書2001, 5-6頁))

 

 以下は長い蛇足。

 実はつい最近、ボンヘッファーの名前を思い出していたばかりだった。思い出させたのは、村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』を論じた下記ブログ記事を読んだ時。

 

sonhakuhu23.hatenadiary.jp

 

 以下引用する。

 

18.暴力、根源的な悪との対決

 208号室で主人公が殴り殺したのは、「悪」そのものであって「ワタヤノボル」本人ではありません。「悪」はおそらく「羊をめぐる冒険」の「先生」のように血溜の形でワタヤノボルの頭の中にあったと思われます。主人公が「根源的な悪」を殴り殺すことによって、血溜は破裂し彼は意識不明となります。なぜ、とどめをささなければいけないというと、彼の体から「根源的な悪」が抜け出て次なる宿主にとりつく可能性があるからです。だから息の根を止めなければ、この話は終わりません。

 この小説は非常に暴力的な小説であり、「根源的な悪」と対決するには「暴力」を使ってでも倒さなければいけないという決意と覚悟があります。かなり過激な小説だといえます。

 ただ、実際にこれを現実世界に当てはめると非常に困難な問題になります。どんな悪人でも殺せば「殺人」になります。悪事を暴いて警察に突き出すのが理想なのでしょうが、「根源的な悪」は巧妙で狡猾であり、なかなかしっぽをださないものです。この小説世界でも、無意識世界で「男」をバットで殴ることによって、ワタヤノボルは意識不明の重体になりますが死んではいません。彼の息の根を止め葬り去るには、クミコが生命維持装置を止めるという現実の「殺人」を行わなければいけませんでした。クミコは逮捕され、刑法上の罰を受けます。

 このことは、重い課題として我々にのしかかります。

 

出典:http://sonhakuhu23.hatenadiary.jp/entry/2013/09/23/074953

 

 上記は、8月22日に読書ブログに公開した記事からの孫引き。ブログ主はコメント欄で「根源的な悪」として辻政信を示唆しており、私は村上春樹が綿谷ノボルと辻政信とを重ね合わせた(だから村上は小説にノモンハン事件を持ち込んだ)可能性が強いことを前記読書ブログで指摘したが、下記にリンクを示すので、興味のおありの方は参照されたい。

 

kj-books-and-music.hatenablog.com

 

 『ねじまき鳥クロニクル』で主人公の岡田トオルと妻のクミコ(第2部の初めで失踪し、トオルの元には物語の終結部でも戻らない*5)は「根源的な悪」あるいは「絶対悪」である綿谷ノボルを「殺した」(岡田トオルは夢あるいは意識下で「殺した」だけだがクミコは手を下している)。村上春樹はこの綿谷ノボルを半藤一利に「絶対悪」と評された辻政信と重ね合わせて造形したのではないかとの前記ブログ主の示唆に接して、私はボンヘッファーを思い出していたのだった。

 一方、浦沢直樹の全18巻の長篇漫画『MONSTER』(1994-2002)では、ヒロインのニナ・フォルトナーと主人公のDr. テンマは、岡田トオルやクミコとは異なる結論に達した。

 以下にネタバレを書いてしまうが、『MONSTER』は「絶対悪」ヨハン・リーベルトの「命を助けてしまった」日本人医師のDr. テンマ(天馬賢三)と、ヨハンの双子の妹、アンナ・リーベルト転じてニナ・フォルトナーがともにヨハンを殺そうとする漫画。ニナは第2巻70頁でヨハンを「絶対悪」と形容した。物語の核は、2度ヨハンを狙撃しようとしたDr. テンマをニナが2度とも阻止する(第9巻、第18巻)ことだが、最初はニナがテンマの代わりにヨハンを撃とうとする。しかし2度目にはニナも撃たずにヨハンを「許す」。しかしヨハンは第三者に撃たれ、テンマは再びヨハンの命を救おうと手術を行う*6。要するに作者は、たとえ「絶対悪」と形容される行為をなした人間といえども、その命を奪ってはならないというメッセージを発していると解釈される。これは、漫画を描いた浦沢直樹よりもむしろ辣腕編集者として知られる長崎尚志のコンセプトの反映ではないかと思われる。

 私は1999年頃からこの漫画にはまり、連載末期には非公式のファンサイトの掲示板でストーリーの展開の当てっこなどをしていた。連載終結直前には特にヒートアップして、検事志望だったニナが弁護士志望に転じるだろうなどと予言して言い当てたりした*7のだが、肝心のニナがテンマのヨハン狙撃を阻止する場面は言い当てることができなかった。クライマックスの回(第18巻Chapter.8「終わりの風景」)の2頁目(第18巻154頁)でニナが雨の街を走るコマを見て、ようやくニナがテンマを止めることに気づいたが、あとの祭りだった。私は、そのコマを見て初めてニナがテンマを止めるために造形されたキャラクターだったことを理解したのだった。ただ、ニナがテンマを止める(178-179頁)直前に2頁見開きで「終わりの風景」(176-177頁)を見せるアイデアは卓抜で、あれには「やられた」とシャッポを脱いだ。ニナがテンマを止めることはもう少し頭が回れば言い当てられたのに、と悔やまれたが、その直前に「終わりの風景」を見せるのは私の能力ではどうやっても予測不能だった。私は『20世紀少年』より『MONSTER』の方をずっと買う人間で、『20世紀少年』はとっくの昔に古本屋に売り飛ばしてしまったが、『MONSTER』は今も持っていて*8、今回この記事を書くために押し入れから引っ張り出してきた。

 で、『MONSTER』を掲示板で論じたことがきっかけで、誰かが教えてくれたのか、はたまたネット検索で知ったのかは忘れたが、最上敏樹の『人道的介入』を読むに至ったのだった。これでこのエントリの長大な蛇足の「円環」は閉じられた。

*1:醍醐氏の4件目のツイートにある "Bonhooeffer" は "o" が1個多いが、これは誤記。

*2:醍醐氏の4件目のツイートに「ディート」とあるのは誤記。

*3:いずれも醍醐氏の単純な勘違いと思われる。

*4:これも醍醐氏のツイート中の「橋下」は誤記。

*5:但し、物語の続きを想像する場合、クミコが岡田トオルの元に戻る以外の展開は想像できないから、『ねじまき鳥クロニクル』は事実上のハッピーエンドの物語だと私は考えている。一方、一般に「ハッピーエンド」と評されることの多い『騎士団長殺し』の方が、続きを想像するとまず免色渉が秋川まりえに「父殺し」をされ、最後には名前のない「私」が「室」(むろ)に「父殺し」をされる展開しかあり得ないように思われる。つまり、『騎士団長殺し』は決してハッピーエンドの物語とはいえない。『ねじまき鳥クロニクル』と合わせて、「禍福は糾(あざな)える縄のごとし」といえるかもしれない。

*6:私見では、この漫画はこの回で終わらせるべきだった。あとの2回には、作者による制作意図の解説の意図があるとともに、最後の最後に奇妙な謎かけをしているが、はっきり言って、これらはない方が良いと思う。物語の円環はテンマの再手術で閉じられている。

*7:第18巻最終章239頁。前述のように作者による制作意図の解説の意味があると思われるが、この部分は不要だったと思う。

*8:なお、浦沢作品では他に『PLUTO』と、人気がイマイチだった『BILLY BAT』も手元にある。

香港で周庭らを一時拘束後釈放。「中国の安倍晋三」習近平の意を受けた香港当局の弾圧か

 昨日(8/30)、周庭ら香港の民主化運動リーダーの一時拘束と釈放が報じられた。

 

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5d6889b2e4b0488c0d1205bd

 

周庭(アグネス・チョウ)氏、一時拘束されていたが保釈。香港民主派団体の幹部、日本語でデモの支持を呼びかけていた【UPDATE】

所属する民主派団体が明らかに。共産党系のメディアも報じた。

高橋史弥
2019年08月30日 11時42分 JST

香港の民主団体「デモシスト」の幹部で、日本語で香港デモへの支持を呼びかけていたことでも知られる周庭(アグネス・チョウ)氏が8月30日朝、警察に拘束されたことが分かった。

体的な容疑は明らかになっていない。

また、同じくデモシストの幹部・黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏も拘束された。2人は2014年に発生した民主化を求めるデモ「雨傘運動」の中心人物。黄氏は運動に絡み有罪判決を受け、2019年6月に出所したばかりだった。

(中略)

中国共産党系の環球時報も、このツイートの情報を引用する形で2人が拘束されたことを伝えている。 

周庭氏は、デモが続く2019年6月にも日本を訪れ、講演やテレビなどに出演。独学で身につけたという流暢な日本語でデモへの支持を呼びかけていた。

【UPDATE 2019.8.30 14:00】
現地メディアの報道によると、黄之鋒さんは「政府が許可していない活動に参加するよう他人を煽動した」「許可されていない週を組織した」「許可されていない集会に参加した」の3つの疑いがある。
周庭さんは「政府が許可していない活動に参加するよう他人を煽動した」「許可されていない集会に参加した」の2つの疑いが持たれているという。 

【UPDATE 2019.8.30 20:00】

 周庭さんと黄之鋒さんが保釈されたとNHKニュースなどが報じた。 周庭さんは記者団に対して「私たち香港人は諦めません。これらの白色テロと不正義を恐れることはありません」と話した。

(後略)

 

(ハフィントンポスト日本語版より)

 

 「中国の安倍晋三習近平の意を受けた香港当局の動きであることは明らかだ。2010年代はアメリカのトランプ、ロシアのプーチンなどとともに、習近平安倍晋三らが凶悪な独裁政治を行って人々を苦しめた時代として後世に語られることになるかもしれない。

 ところで周庭を「アグネス」と呼ぶのは止めた方が良い。周庭本人は、よくアグネス・チャンと比較されるが、親中派アグネス・チャンは嫌いだ、周囲の人たちは自分のことを単に「周庭」と呼ぶと言っている。

兵庫県でも神戸市中央部・東部や阪神間で強い山本元号党/消費税減税または廃止の訴えは生活に困っている人たちに本当に訴求しているか

 今頃知ったのだが、MMT(現代金融理論)を山本太郎に吹き込んだといわれている池戸万作が10日ほど前にこんなツイートを発していた。

 

 

 

 これは参院選比例区の得票率なのだろうが、全国平均の4.55%と比較して、山本太郎の出身地である宝塚市でさえそれを下回っているが、兵庫県内では相対的に阪神間や神戸市中央部・東部で山本元号党の得票率が高かったことがわかる。つまり、山本党は典型的な都市型政党であり、比較的「生活に困っていない、余裕のある人たち」が支持層の中心であるといえる。

 こう考えると、山本党の得票率が兵庫県において全国平均をかなり下回る理由がわかる。この地域では大阪維新の会大阪府内ほどではないが非常に強いのだ。兵庫県内では阪神間や神戸市中央部・東部が維新の金城湯池であることはよく知られているが、山本党の支持層は維新の支持層と強く被っているのだ。そして、維新の支持層は、2017年の衆院選では兵庫県どころか大阪府においてもかなり立憲民主党に流れた事実がある。つまり、一昨年の衆院選で立民の得票層を押し上げ、今年の参院選で山本党の得票率を押し上げたのは、それらの党の存在がなければ維新のような政党に心惹かれる人たちであって、一昨年の立民にせよ今年の山本党にせよ、「本当に困っている人たち」には、訴えがさほど響いていない可能性が高い。もちろん個々には響いた例があるだろうがそれは少数派で、むしろ「意識高い系」*1だかなんだかの「リベラル」が立民や山本党の得票源だと考えた方が良い。

 

 池戸は、上記のツイートを発した2日後、下記のツイートを発信した。

 

 

 これにも「そうだよなあ」と思う。特に、最近ではかなり浮動票が流れ込むようになった共産党(この党は一昨年の衆院選では立民に、今年の参院選では山本党にその浮動票からの得票をずいぶん奪われた)よりも公明党にその傾向が顕著だ。少し前にこの日記にも、東京23区内では比較的「生活が苦しい人たち」の比率が高いと思われる東京東部の足立区、江戸川区葛飾区で山本党の得票率が低く*2公明党の得票率が高いことをデータで示したことがあった。ちょうど池戸万作が上記3件のツイートを発信した直前くらいに公開したエントリだ。

 

kojitaken.hatenablog.com

 

 現在、私が大いに関心を持っていることが一つある。

 それは、消費税減税または消費税廃止のワン・イシューの訴えがどれくらいアンダークラスに訴求するかという命題だ。

 現在、特に山本党支持層の間では、それこそがアンダークラスの心に響く政策だとされる傾向が強いように思うが、私の意見ではそれは単なる仮説に過ぎない。それが山本党支持者たちの間ではドグマ(教義)と化して硬直化していることは大いに問題であり、この件に関するアンダークラスを対象とした研究者等による調査で実証される必要があるのではないか、あるいはそのような調査は既になされているのではないかと思うのだ。

 もちろん、再来月(もうすぐ「来月」)に予定されている消費税増税は、日本経済にダメージを与えて人々の暮らしを悪くする愚策であると私も考えているが、消費税減税または廃止が本当にアンダークラスの人たちに強く響く政策であるかどうかは別問題だ。アンダークラスの人々が求めるのは、もっと総合的な「格差縮小・階級解消」に向けての政策パッケージではないか。山本太郎の訴えがシングル・イシューであるとも思わないが、シングル・イシューに見える政治手法を山本太郎が用いている傾向は確かにあり、それは野党間の権力抗争の駆け引きに使われている*3ように見える。しかしそれが選挙での得票に有効であるためには、大前提として「消費税減税または廃止が本当にアンダークラスの人たちに強く響く政策である」ことが必要だ。その大前提を私は疑っているのだ。

 直観的に、消費税が10%から8%に減税されたところで、たかだか2%くらいの減税で欲しいものが買えるようになるわけではない、それよりもっと根本的に暮らしを楽にする政策を実行してもらいたい、そう強く願う人たちが多いのではないかと思う。そして、日々「人生の『伴走者』」になってくれている公明党の方が、実際には安倍政権に追随するだけで政策が良いとはとても思えないにもかかわらず強く支持されているのではないかと思う今日この頃なのである。

*1:このあたりのネット用語には私は疎いのだが、適当に使ってみた。

*2:それでもこれらの区においても山本党の得票率は兵庫県神戸市中央区をわずかに上回っていた。

*3:その権力抗争の手法を、山本太郎小沢一郎に学んだのだろうと推測される。