kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

クライメイトゲート事件をめぐる田中宇の陰謀論と専門家の解説

『きまぐれな日々』に、和久希世さんのブログ『春 夏 秋 冬』から、現在話題になっている「クライメイトゲート事件」に関するトラックバックをいただいた。
地球温暖化説のメッカ気候研究所(CRU)のデータトリック - 春 夏 秋 冬

内容は、田中宇が、クライメイトゲート事件*1にかこつけて、持論である地球温暖化陰謀論を展開した記事*2を紹介したものだ。

この件に関しては、陰謀論者として有名な田中宇の記事を鵜呑みにするのではなく、気候学者の江守正多氏が「日経エコロミー」に書いた記事「過去1000年の気温変動の虚実」を合わせて読まれることをおすすめする。

科学者といえど、「長いものに巻かれろ」思考をとったり、保身のためにデータを捏造したりすることは現実には珍しくないのは当然だ。だが、それが温暖化仮説の確からしさを一気に突き崩すほどのものであるかどうかは、慎重に見きわめる必要がある。

そして、過去にはIPCC気候変動に関する政府間パネル)は、米ブッシュ政権から度重なる干渉を受けてきたことにも留意する必要がある。これについては、金子勝とアンドリュー・デウィットの共著『環境エネルギー革命』(アスペクト、2007年)に詳しい。『きまぐれな日々』で、過去にこの本を4件のエントリに分けて紹介したことがあるので、その第2回*3から引用する。

第3章「地球温暖化−より大きな負の外部性」で、地球温暖化問題が論じられている。

IPCC気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告書が2007年に発表されたが、人間の活動によって気候変動が引き起こされていることが科学的に証明できると断言し、化石燃料の消費によって気候変動を起こす温室効果ガス(特に二酸化炭素)が生産されていることは明らかだとした。

報告書は、今世紀中に平均気温が1.1〜6.4度上昇し、海面が18〜59センチ上昇すると予想しているが、それでも報告書の予想は楽観的に過ぎると見られているのだという。

その理由の一つに、地球温暖化の議論を嫌う米ブッシュ政権が、IPCCにしばしば横ヤリを入れてきたことがあげられる。たとえば、ブッシュ政権は石油会社エクソン・モービルの要請を受けて、IPCC議長だったロバート・ワトソンを議長の座から追う工作をした(2002年解任)。ワトソンは、フロンガスの規制を唱え、オゾンホールの拡大を食い止めるのに貢献した学者である。著者は、これは陰謀論などではなく、米民主党による調査で暴露された事実だとしている。

 ちなみに日本と違って、こうした米民主党による暴露は、実行能力のある野党と、政権党を制するための制度化された手段が存在する価値を証明している。政府内の競争と政権党の定期的な交代は、政府の人間に責任を問うための強力で貴重な動機と手段を与える。それは、有力な利益団体から資金が流入している場合は特に不可欠になってくる。

金子勝、アンドリュー・デウィット著 『環境エネルギー革命』 (アスペクト、2007年) p.120)

(中略)

ブッシュ政権は、ワトソンだけではなく、さまざまな国際機関の気に入らない人物をその役職から外そうとしてきた。著者は、

 ネオコンたちは、自分たちに従順なグローバル社会を築きたいと考えており、その一方で米国は、主要な世界的機関、特に国連や国際法廷、各種の軍縮協定や京都議定書への関与を弱めていった。

と指摘する。

結局、ワトソンの後任のIPCC議長には、インド人のラジェンドラ・パチャウリが就任した。著者は、大気科学を学んだことがないIPCC議長は彼が初めてだった、と皮肉り、先年死去した著名な経営学者・P.F.ドラッカーの言葉を引きながら、下記のように第3章を締めくくっている。

 リーダーシップはどんな組織にも必要不可欠だということがわかる。また、あるリーダーの更迭が賛否両論を起こせば、その組織とその組織が属するコミュニティに強力なメッセージを送ってしまうことになるのは常識だろう。リーダーシップが弱まれば、組織も弱くなる。皮肉を込めて言えば、世界がもっとも急を要する危機に直面している時、中心的な国際機関のリーダーシップを弱めるというのはなんと素晴らしい戦略であろうか。

金子勝、アンドリュー・デウィット著 『環境エネルギー革命』 (アスペクト、2007年) p.129)

(『きまぐれな日々』 2008年7月25日付エントリ「金子勝&デウィット 『環境エネルギー革命』 を読む(2)」より)


田中宇池田信夫、それに植草一秀らは「地球温暖化陰謀説」を支持しているが、その陰謀説が大衆の支持を受ければ、アメリカ(や日本)のネオコンは大喜びすることになる。だから、彼らの得意とする陰謀論的思考を用いると、それこそ彼ら自身が「悪徳ペンタゴン」もとい、アメリカのネオコンに操作されていることになってしまう。私は、世の中が陰謀で満ちあふれていること自体を否定するものではないし、ある陰謀が存在するとする仮説を立てることは自然な考え方だとも思うが、その仮説をドグマにしてしまってはならない。田中、池田、植草らはその罠にはまっているように、私には見える。