kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「新タイプのウイルス、6月に突然出現…東京から感染拡大」という読売記事の見出しは読者を誤解させるもの。実際には「欧州型の遺伝子が一部変異したウイルス」

 下記は今朝(8/8)の読売新聞の報道。

 

www.yomiuri.co.jp

 

 この記事は読売には珍しく、引用できるようだ。以下引用する。

 

新タイプのウイルス、6月に突然出現…東京から感染拡大

2020/08/08 07:46


 新しいタイプの遺伝子配列を持つ新型コロナウイルスが、6月以降全国に広がっているという分析結果を国立感染症研究所の研究チームが公表した。東京から地方への移動によって感染が拡大したことが、ウイルスの遺伝子分析からも推定される結果となった。研究チームは、日本人が感染した新型コロナウイルスの遺伝子に着目。配列の変化と流行の関係を調べた。

 

 その結果、3月からの感染拡大では、欧州系統の遺伝子配列を持つウイルスによるクラスター(感染集団)が全国各地で複数発生した。5月下旬にいったん収束したものの、6月中旬、東京を中心に新たなタイプの遺伝子配列のウイルスが突然出現。現在、急速に増加している全国の陽性患者の多くが、新タイプに属することが分かった。

 

(読売新聞オンラインより)

 

出典:https://www.yomiuri.co.jp/medical/20200808-OYT1T50126/

 

 この記事は、昨日(8/7)朝に流されたNHKニュース(弊ブログでも下記記事で取り上げた)と同じ国立感染症研究所発のニュースであるにもかかわらず、それと真っ向対立するものかと一瞬思った。しかしよくよく読むと、そうではなく同じ情報をNHKと読売とで異なる印象を受け手に与える伝え方をしたものだとわかった。

 

kojitaken.hatenablog.com

 

 上記記事にも引用したNHKニュースを再び引用する。

 

www3.nhk.or.jp

 

新型コロナ 感染が水面下で継続 6月中旬以降に再び顕在化か

 

新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、国内では、5月にいったん収束したと思われたウイルスによる感染が水面下で継続していて、6月中旬以降、再び顕在化したとみられることが、国立感染症研究所が行ったウイルスの遺伝子の詳細な解析の結果、分かりました。

研究所は、移動の自粛が緩和されたあと、見えないまま続いていた感染が、全国に広がった可能性があるとしています。

国立感染症研究所は、国内で感染した人から検出されたウイルスの遺伝子を詳しく解析して、どう広がったのか分析した結果を発表しました。

それによりますと、ことし3月中旬以降、国内に広がったウイルスは、中国 武漢からヨーロッパを経て入ってきた「ヨーロッパ系統」と呼ばれるタイプのもので、5月には、このウイルスによる感染はいったん収束に向かいました。

ところが、6月中旬以降になると、各地で感染者の集団=クラスターが発生し、ウイルスを解析すると、いったんは見られなくなった「ヨーロッパ系統」のウイルスの遺伝子の一部が変異したものだったと分かったということです。病原性が強くなったり、弱くなったりする変異は確認されていないとしています。

研究所では、無症状か軽症の感染者による感染が水面下で続いていて、6月中旬以降は、同じ系統のウイルスによる感染が再び顕在化し、移動の自粛が緩和されたあと、東京だけでは収まらず、全国に広がった可能性があるとしています。

 

NHKニュースより)

 

出典:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200807/k10012555471000.html

 

 なんのことはない。読売が「新たなタイプの遺伝子配列のウイルスが突然出現」と書いたウイルスとは、「ヨーロッパ系統」のウイルスの遺伝子が変異したものだったのだ。

 こう断定するヒントとなったのは、読売の記事についた下記の「はてなブックマーク」コメントだ。

 

b.hatena.ne.jp

 

新タイプのウイルス、6月に突然出現…東京から感染拡大 : 医療・健康 : 読売新聞オンライン

んーこれは感染研のリリースちゃんと見た方がいいですね<a href="https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9787-genome-2020-2.html" target="_blank" rel="noopener nofollow">https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9787-genome-2020-2.html 「新タイプのウイルス」と言われると誤解する人多いと思う。3月からの変異は6塩基

2020/08/08 11:38

b.hatena.ne.jp

 

 感染研のリリースは下記。

 

www.niid.go.jp

 

 以下、NHKと読売の報道に関連すると思われる箇所を引用する。

 

欧州系統の同時多発は全国レベルであったが、その後発生した地域固有クラスター(欧州系統から1,2塩基変異を伴う)は現場努力によって少しずつ収束へ向かった(5月下旬)
しかしながら、6月上旬からすこしずつ感染者数が増加傾向へ転じ、その後、東京都を中心にクラスターの多発が確認された。
それに並行して7月上旬から地方でも陽性者が増加し、主要都市圏から注意喚起が発せられた。
6月下旬以降をネットワーク図で分類すると、さらに変異が進んだ特定のゲノムクラスターを確認し、ネットワーク図(図1)・右下の離れたクラスター●(赤背景)を基点に全国各地へ拡散していることが分かった。
これらゲノム情報は、欧州系統(3月中旬)から さらに6塩基変異を有しており、1ヶ月間で2塩基変異する変異速度を適用すれば、ちょうど3ヶ月間の期間差となり時系列として符合する。
この3ヶ月間で明確なつなぎ役となる患者やクラスターはいまだ発見されておらず、空白リンクになっている。この長期間、特定の患者として顕在化せず保健所が探知しづらい対象(軽症者もしくは無症状陽性者)が感染リンクを静かにつないでいた可能性が残る。
6月下旬から、充分な感染症対策を前提に部分的な経済再開が始まったが、収束に至らなかった感染者群を起点にクラスターが発生し、地方出張等が一つの要因になって東京一極では収まらず全国拡散へ発展してしまった可能性が推察された。

 

出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9787-genome-2020-2.html

 

 NHKと読売の報道を比較すると、NHKの方がより正確であり、それと比較すると、読売の報道をそのまま読むと、あたかも「中国(武漢)型でも欧州型でもない、『東京型』なる全くの新型ウイルスが突然降って湧いたように現れた」かのような印象を与える。

 それと同時に、NHKの報道に接した受け手の多くが受けたと思われる「ああ、やっぱり5月の緊急事態宣言解除は時期尚早だったんだなあ」という印象を打ち消す効果を、読売の報道は持っている。

 つまり、緊急事態宣言の解除には何も問題はなかったのだが、新たに「東京型」ウイルスが発生してしまったのだから仕方がない、という方向に受け手をミスリードする効果があるのだ。

 私など、読売はその効果を狙って、わざわざNHKの報道の翌日にこんな記事を出してきたのではないかと勘繰ってしまう。

 やはり読売はプロ野球球団も新聞も両方とも極悪だ。そう改めて認識した次第。

 

 なお、NHKニュースの最後に「病原性が強くなったり、弱くなったりする変異は確認されていない」と書かれていることにも注目したい。

 つまり感染研の専門家たちは、今回感染が拡大しているウイルスが「弱毒化している」などとは全く認識していないということだ。

 

[追記]

 時事通信もこの件を報じている(下記にリンクを示す)。引用はしないが、概ね妥当な記事だ。やはり読売だけが突出しておかしな記事になっている。

 

www.jiji.com