イギリスの「新首相」(もうすぐ前首相)トラスの大失敗は「減税真理教」の破綻以外の何物でもなかろう。
ところが、このトラスを持ち上げていたのが例の零細政党の信者*1界隈だったようだ。信者の構成員には「右」も「左」もないらしい。
「『730円のイヤリングを身に着けるトラス候補』が支持を集めています。ポプュリズム左派は世界の潮流にあり、泉市長やれいわ新選組に流れは向いています。」
— りんこ (@mild_ozi) 2022年10月20日
このツイートから1ヶ月ちょっとなのに。
泉市長もトラス首相も辞意表明。
れいわの支持率は1/3に。
キングボンビーやん。 https://t.co/OgE6L8T1oi
伏字新選組の政治塾塾長とやらであられるらしい長谷川羽衣子も、先月初めに下記のツイートを発信していた。
英国の次期首相を選ぶ保守党の党内選挙では、消費税(付加価値税)の引き下げが争点に浮上。優勢とされるトラス外相は、生活費高騰に対し消費税を最大5%引き下げる案を検討中。平均世帯で年間20万円が浮く試算です。もう1人の首相候補で緊縮派のスナク前財務相は消費税引き下げ案に猛反発しています。
— 長谷川ういこ (@uikohasegawa) 2022年9月2日
だが、9月24日付の下記東京新聞記事を見る限り、トラスの減税政策は所得税の大幅引き下げや法人税増税中止に主眼があり、「エコノミストらは『恩恵を受けるのは大企業や富裕層』と指摘」するという、河村たかしばりの「減税真理教」の政策だった。
イギリス・トラス新政権、減税政策発表後にポンド急落 「トラスノミクス」に批判続出で前途多難
2022年9月24日 20時48分
【ロンドン=加藤美喜】今月6日に発足したトラス英政権は23日、大規模減税を柱とする「成長プラン」を発表した。減税総額は5年間で約450億ポンド(約7兆円)で、過去50年で最大規模。8日に死去したエリザベス女王の服喪が明け、新政権の経済政策始動をアピールしたが、借金頼みの財源への不安などから通貨ポンドは急落。早くも険しい船出となった。
減税はトラス首相の保守党党首選からの最大公約。盟友のクワーテング財務相は23日、来年4月からの法人税率引き上げ(19%から25%)の中止や、今年4月に上がった国民保険料の再値下げ、所得税の最高税率の引き下げ(45%から40%)、住宅購入時の印紙税削減などを発表した。海外からの買い物客の消費税を免除するデジタルシステムの早期導入も約束した。
ロシアのウクライナ侵攻の影響を受けたエネルギー価格の高騰や10%を超すインフレで、国民は「生活費危機」に苦しむ。女王が死去する数時間前には、家庭の光熱費の上限を10月から年2500ポンド(約41万円)に固定する救済策を発表。21日には企業や商店の光熱費に上限を新設することも決定した。
ただ、これらの光熱費支援策は半年で約600億ポンド(約9兆3000億円)にも上り、一連の経済政策の財源は借金が柱。このため財政悪化への懸念で23日にはポンド売りが進み、対ドルで37年ぶりの安値を記録した。
減税に加え、クワーテング財務相は「前例のない税制優遇措置で企業の投資を呼び込む」と強調。ロンドンの金融都市としての魅力を高めるため、銀行員のボーナス上限を撤廃するなど、世界での競争力強化に主眼を置いた政策を打ち出した。
だが、エコノミストらは「恩恵を受けるのは大企業や富裕層」と指摘。野党は「借金のツケを国民に負わせる政策」と批判している。英メディアは「トラスノミクス」が成功するか否かは、首相の「大きなギャンブルだ」と伝えている。
(東京新聞より)
結局トラスはギャンブルに失敗し、イギリスはポンド安と物価高騰再燃に見舞われ、内閣支持率は7%にまで下落して英国史上最短の首相任期で退くことになった。
こんなトラスを「伏字新選組政治塾塾長」とやらが持ち上げていたというのだから、赤っ恥もいいところだろう。
ネオリベ政策がもてはやされていた時流に乗って、当時の大蔵省が日本の税制を消費税偏重へ傾け過ぎたと官僚が後悔していたとの話を、昔飯田泰之と雨宮処凛の「共著」で読んだ記憶があるが、トラスの思想信条の柱は単純な「小さな政府」志向だった。つまりトラスは典型的なネオリベ政治家なのだ。このことは上記記事と同様に先月報じられた下記東京新聞記事からもうかがわれる。
英新首相に就任するトラス氏 つかんだのは党員の心 生活費高騰で前途多難 日本と連携強化へ
2022年9月6日 06時00分
英与党保守党の党首選でトラス外相(47)が勝利し、新首相に就任する。候補者を絞り込む議員投票でリードしていたスナク前財務相(42)を逆転しての勝利となったが、党員による決選投票は国民の広範な支持を反映していない。トラス氏には就任直後から国民の生活費高騰という難題が待ち受ける。(ロンドン・加藤美喜)
◆「即時減税」公約で支持広げる
「トラスの減税に賛成する。『小さな政府』こそが真の保守主義だ」。ロンドンでの先週の党員集会で、トラス支持者の男性(55)は熱く語った。
トラス氏の「即時減税」公約は総額300億ポンド(約4兆8000億円)規模。▽来年4月に19%から25%へ引き上げが決まっていた法人税増税の撤回▽春に上げたばかりの国民保険料の値下げ▽光熱費に上乗せされるグリーン課税(8%程度)の凍結―が主な柱だ。
当然、懸念も出ている。国民保険料の引き下げでは、新型コロナウイルス対応で疲弊している国民医療サービスの維持が危ぶまれている。グリーン課税は再生エネルギーの導入費用などに充てられており、凍結は温暖化対策が後退する恐れがある。スナク氏は、トラス氏の減税案について「借金頼みで財源が示されず、恩恵を得るのは大企業や富裕層だけだ」と訴えたが、支持は広がらなかった。
◆現実的経済政策より大義や原則強調
その要因について、ロンドン大キングス・カレッジのロッド・ダコーム准教授(政治学)は「大事なのは、総選挙ではなく保守党員による身内の投票ということだ」と指摘する。党員は約17万人で、全人口の0.3%にすぎない。白人が圧倒的で、伝統的価値観を重視する年配男性が多いとされる。「経済や社会問題で、トラス氏は党員の耳に心地いいテーマを選んだ。スナク氏の現実的な経済政策よりも、大義や原則を強調する方が党員が喜ぶと分かっていた」と分析する。
党員の人気投票を制しても、トラス氏の前途は多難だ。一般家庭の光熱費は10月から上限が80%引き上げられ、年3549ポンド(約57万円)に。来年は6600ポンドを超えるとの試算もある。
「明日総選挙があれば、どの党に投票するか」との8月下旬の世論調査大手ユーガブの世論調査では、39%が労働党と答え、保守党は31%だった。ダコーム氏は「生活費危機が改善されなければ、24年の総選挙で保守党は大敗する」と予測する。(後略)
(東京新聞より)
こんな政党に属する過激な新自由主義者・トラスを持ち上げた長谷川羽衣子が全く信用ならないことは明らかだし、彼女が「政治塾塾長」を務める零細政党も同様に全く信頼に値しないこともいうまでもない。
志位和夫が権力を手放さない共産党はこんなネオリベ志向の強い零細政党との連携を強めたい意向のようだが、志位はいったい何を考えているのかと言いたい。
零細政党に関しては、下記ツイートに強く同意する。
れいわは税は金持ちから取れという主張をこのところ引っ込め気味ではあったが、そろそろそれを引っ張り出さないと消費減税一辺倒では厳しくなりそう。
— ツイッター政治おじいちゃんお化け (@micha_soso) 2022年10月20日
そうなんだよな。山本太郎はかつては消費税減税とセットに「大企業と富裕層への増税」を言っていたが、ある時期からあまり言わなくなった。それどころか長谷川羽衣子みたいに過激な新自由主義者を持ち上げる輩が変な方向に信者を誘導しているのが現状だ。
なお、右翼が志向する政策と税制との絡みに関しては、少し前に報じられた防衛費倍額の財源を法人税にする案が政府で検討され、財界がそれに反発しているとの報道にも、皮肉な笑いを禁じ得なかった。そりゃ当然そういう話になるだろうと思ったのだ。
まず朝日の有料記事の無料部分を下記に示す。
防衛費財源は「所得税、法人税を含めて検討」 自民・宮沢税調会長
千葉卓朗、筒井竜平 2022年10月17日 18時57分
自民党の宮沢洋一税制調査会長が17日、朝日新聞などのインタビューに応じ、防衛費増額の財源について、大規模な税負担が生じる場合は「所得税、法人税を含めて検討していくことになる」と述べた。
宮沢氏は「大変厳しい財政事情にある」とし、防衛費について、まずは歳出削減で財源を捻出するべきだと強調。その上で大きな財源を税収で調達する必要があれば、「主な税(消費税、所得税、法人税)というものをそれなりに議論しなければいけない」とした。ただ、消費税は社会保障のための財源だとして、3税の中では所得税と法人税が増税候補になるとの考えを示した。
また、宮沢氏は「(増税を)決めたからといってすぐに税収に結びつくわけではなく、時差があることも念頭において議論する必要がある」とも指摘。12月にまとめる与党税制改正大綱で、増税の中身をどこまで明示するのかを記者団から問われると、「(今年の大綱で決める)来年度はともかく、再来年度は税収(が必要だ)ということがあるなら、それなりの書き方をせざるを得ないだろう」とした。
一方、自身が以前から訴えて…(以下有料記事)
(朝日新聞デジタルより)
各種世論調査を見ると、故安倍晋三が旗振りをやっていた「防衛費倍増」政策は、惰性力によって今でも世論にかなりの支持があるようだが、上記引用文中赤字ボールドにした「歳出削減」が福祉や社会保障の削減を必ず伴うことを人々はよく認識しなければならない。安倍は「財源は赤字国債で」と、山本太郎と同じようなことを言っていたが、現実に防衛費を増額するとなると、政府が主に所得税と法人税を財源に求めるのも当然の話だ。
経団連はこの件にさっそく反発した。以下に日経の有料記事の冒頭(無料)部分を示す。
2022年10月3日 19:00
経団連の十倉雅和会長は3日の定例記者会見で、防衛費増額の財源として政府内で浮上する法人税引き上げ案について「(防衛費は)国民全体で負担すべき性格のもの。法人税の議論が先行するのはいかがなものか」とけん制した。増額規模などに「十分な説明がない」として今後の議論を注視する考えを示した。(後略)
(日本経済新聞より)
出典:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA038380T01C22A0000000/
要するに経団連会長・十倉は「財源には消費税を充てろ」と言っているわけだ。
この件に関して岸田文雄がとるべき選択肢は一つしかない。
それは、安倍晋三がもうこの世にいなくなったことでもあるし、安倍が旗を振った無責任な防衛費倍増の政策を白紙撤回することだ。現在の日本に、そんなお花畑の政策を行う余裕など全くない。
そういう思い切った選択をして初めて、岸田政権延命の可能性も生じよう。
しかし岸田にそんなことができるはずもない。安倍の口車に簡単に乗ってしまった岸田はあまりにも軽率だったが、無能なリーダーの常として、ゴーサインはいとも簡単に出すが、止めることは絶対にできない。その典型例が安倍の国葬だった。自らがいとも簡単に決めた国葬実施を撤回できなかったために、岸田は内閣支持率を大きく落として現在に至る。
岸田は、自らにすり寄ろうとしている泉健太や玉木雄一郎ともども沈みゆく運命にあるとしか思えない。
*1:お気づきの読者もおられるかもしれないが、弊ブログは彼らに対して「信者」と括弧付き表記をするのを止めている。まともな支持者などもうほとんど残っていないと認識しているからだ。