kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「しんねん」の話

昨年の大晦日から今年の正月3日まで、ネットに何も書かなかった。昨年の暮れから、新年の挨拶のエントリを上げるのはやめておこうと考えていたからだ。別に身内に不幸があったとか、最近は元旦からスーパーが営業してたりして気に食わないからこれに反発して、といった話ではない。後者は元旦からスーパーなどが営業しているのは私も気に食わないけれど、これに抗議して元旦には何も書かないというポリシーまではなかった。単に大晦日や正月三が日にまでネットにアクセスする気が起きなかったというだけの話である。

そんなわけで、今年は1月4日に新年の挨拶として「おめでとう」抜きで、「今年もよろしく」とそっけなく書いただけだった。

で、こんな前振りにしたのは、「しんねん」という読みの知らない言葉を、読んでいた本に見つけたことを記録しておくため。


広場の孤独 漢奸 (集英社文庫)

広場の孤独 漢奸 (集英社文庫)


年末に図書館で見つけて借りた。しかし読んだのはようやく昨夜から今朝にかけてだった。「広場の孤独」、「漢奸」はともに1951年に書かれたが、前者は朝鮮戦争のあった1950年の日本の新聞社を舞台にしているのに対し、後者は終戦前後の上海を舞台にしている。1952年に芥川賞を受けたという「広場の孤独」にも増して「漢奸」が印象に残った。著者の堀田善衛自身、上海で終戦を迎え、小説の主人公「匹田」と同様、中国国民党に徴用されて1946年12月まで働いていた。

さて、問題の「しんねん」は、その「漢奸」に出てくる。以下引用する。

 やがて八月十五日が正確に来た。天皇はその放送で、占領各地で莫大な数に上る犠牲者を出すにいたることの責任については、ただ漠然と、遺憾ノ意ヲ表セサルヲ得ス、と厭味な二重否定形を用いただけであった。徹頭徹尾、問題は朕とその臣民に対する軫念の範囲を出なかった。匹田はそこに、国家や政治が根本的に含んでいるエゴイスティックな面を見せつけられて慄然とした。

堀田善衛『広場の孤独 漢奸』(集英社文庫,1998)218頁)


赤字ボールドにした「軫念」に「しんねん」とルビが振ってあったが、私はこの言葉を知らなかったので、読み終えたあとネット検索をかけた。

軫念(しんねん)とは - 軫念の読み方 Weblio辞書

しん ねん [0] [1] 【軫▼念】

  1. 天子が心を痛め,心配すること。
  2. 天子の心。宸念。

三省堂 大辞林より)

まあ想像通りの意味ではあった。で、ここから連想とネット検索とによって、下記のバカバカしい事実に行き当たった。

今年の元旦に話題になったのは、天皇の新年の挨拶であった。朝日新聞デジタルによると、天皇宮内庁を通じ、新年にあたっての感想を発表した。

(前略)

 本年は終戦から70年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。各戦場で亡くなった人々、広島、長崎の原爆、東京を始めとする各都市の爆撃などにより亡くなった人々の数は誠に多いものでした。この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています。この一年が、我が国の人々、そして世界の人々にとり、幸せな年となることを心より祈ります。

朝日新聞デジタル 2015年1月1日05時00分)


朝日新聞本紙では、感想の全文は引用されていないが(「デジタル版に感想の全文」と書かれている)、上記引用文は東京本社発行14版では38面(第二社会面)に「戦後70年『歴史学ぶこと大切』」という見出しとともに報じられている。

しかし、何を考えたか、朝日がこの挨拶を報じていないとクレームをつけたのが、誰あろう、あの迷著(トンデモ本)『戦後史の正体』の著者・孫崎享だった。下記の事実は、ネット検索で見つけた Blog「みずき」 2015年の戦端を開く言葉として(2) ――朝日新聞の「天皇陛下所感」報道に関しての孫崎享氏の誤情報騒動(2015年1月3日)経由で知った。

まず孫崎が発したTwitterは下記。

https://twitter.com/magosaki_ukeru/status/551164629187977216

孫崎 享
@magosaki_ukeru

朝日紙面、予測通り、天皇の「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び,今後の日本のあり方を考えていくことが,今,極めて大切なことだと思っています」という新年に当たり「天皇陛下のご感想」を報道せず 。一面安倍訪米予定。無料URL1時間http://ch.nicovideo.jp/article/ar699779?key=1d782202a7de9ad6f6ee13ab0b71a81aa92b1e75a88fa3dee7416437d21614d5

15:54 - 2015年1月2日


この孫崎のつぶやきを真に受けて、

やっぱり朝日から、東京に変えて正解。

などとつぶやいたそそっかしい人もいたが*1、東京だけではなく朝日の大阪本社版でも報じていたと指摘する人もいた。

https://twitter.com/Yonenaga_c/status/551167141060149248

米長 壽
@Yonenaga_c

@magosaki_ukeru 大阪朝日は1月1日38頁に概略出ていますけれど。「ご一家」の写真つき。「戦争の歴史学ぶこと大切」の見出しで。

16:04 - 2015年1月2日


しかしこうした指摘にもかかわらず、孫崎は大嘘をかましTwitterを未だに削除していない(関連のTwitterを一部削除したらしいが)。こうして、今日も孫崎による「現代史の修正(=捏造)」が続けられているのである。

これはもちろん、「軫念」だか「大御心」だかを称賛して、朝日新聞を「対米従属派」としてこき下ろしたいという一心から発した、孫崎享という右翼の「勇み足」だったのだろうが、新春早々大嘘を拡散するとは、いかにも間抜けな孫崎らしい。

さらに、その孫崎と同罪というべきは内田樹である。内田は孫崎の誤報を裏をとることもなく無批判に垂れ流した。

https://twitter.com/levinassien/status/551167921318150144

内田樹
@levinassien

孫崎さんの⬇RT によると、朝日新聞は「天皇陛下のおことば」の報道をしなかったそうです。安倍政権によるメディア支配は着々と進んでいるようです。読賣、朝日の二紙が政権批判ができない新聞となれば、「新聞離れ」は一気に加速するでしょう。

16:07 - 2015年1月2日


孫崎享よりさらに影響力の大きな内田樹Twitterには、さすがに事実誤認を指摘する多くのTwitterが発信されているが、内田もまたこのTwitterを削除していない。

孫崎享となかまたち(内田樹白井聡ら)への監視は、今年も怠りなく続けるしかないのかと、新春早々嘆息させられた。

話はコロッと変わるが、「しんねん」といえば、浪人時代の2006年の正月に「信念あけましておめでとう」などとかまして、小泉純一郎の「構造改革」を批判する勢力に取り入ることに成功した極右政治家・城内実を思い出してしまった。

こうして、新春早々、孫崎享内田樹白井聡城内実といった、漢字三文字からなる人たちにまつわる、真冬なのに暑苦しい話になってしまった。以下の言葉との間には大きなギャップが生じてしまったが、何はともあれ、遅ればせながら改めて新年のご挨拶を差し上げる。


新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。